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ユア父は瑞輝が食べるのを見ながらニコニコと微笑んだ。
「おいしいかい?」
瑞輝はカウンターのユア父を見た。「うん。店に出せる」
「出してるよ」ユア父は笑った。「お腹減ってるなら、ホットドッグでも出そうか?」
瑞輝は首を振った。「いい。家でばあちゃんの煮物が待ってる。食わねぇと泣く」
わははとユア父は笑った。「いい子だなぁ」
瑞輝はチーズケーキを頬張った。「ユアがこんなの作れるとは思ってなかった」
「そうだろう? 好きな人でもできたんじゃないかな。チーズケーキが好きな人」
瑞輝は黙ってケーキを見た。それから顔を上げる。「相談って何?」
「え?」ユア父は面食らってニヤニヤ顔を消した。
「相談。なんか電話で言ってた。人形じゃないって」
人形? 伊瀬谷氏は耳をぴくりと動かした。
「ああ、うちのお隣さんなんだけど、ゴミの不法投棄で困ってて。いろいろ柵とか作ってみたりもしてるんだけど、なんとなーくゴミがたまるんだよね。それで野良猫やカラスも増えて困ってるって」
「なんだ」瑞輝はコーヒーを飲んだ。「ゴミか」
「何を期待したんだい?」再びユア父はニヤニヤした。
「俺にゴミ掃除しろっての?」
「いやいや、ちょっと見て欲しいだけ。なんか悪いものがあって、どうしてもゴミを捨てたくなる場所になってるんじゃないかと」
「人形んときも、そういう流れだったんだよな」瑞輝は顔をしかめた。「しばらく、その系統はやめておく」
「ええーーーっ」ユア父は困った顔をした。「見てもらうって約束しちゃったよ」
「勝手に約束するからだろ」
「一瞬でいいんだ。チラッと帰りに見てくだけで」
「暗くて見えねぇよ」
「またまたぁ。入間君、別に光とか関係ないくせに。必要なら懐中電灯、貸すよ。だいたい、その場所は夜も外灯を点してるんだよ。不法投棄禁止のために」
「やだよ、死体とか発見しちゃったらどうすんだよ、俺、本当に最近、運が悪いんだって」
ユア父は困ったように口をへの字に曲げた。
瑞輝は黙ってケーキの残りを食べ、コーヒーを飲んだ。伊瀬谷氏は二人の会話には入らず、黙って新聞に目を落としている。
チッ。瑞輝が舌うちをして、伊瀬谷氏は目を上げた。
「わかったよ、帰りにちょっと見るだけなら」
ユア父は顔を明るくした。「助かるよ」
瑞輝はため息をついた。「バレたら怒られるから、黙っておいてほしい」
「誰に怒られるんだい? お兄さん?」
瑞輝は首を振った。「じゃないけど、いろいろ」
ユア父は伊瀬谷氏を見た。二人は微妙な表情で顔を見合わせ、それからお互いに目を反らした。
「無理して来なくても良かったのに」
声が先に聞こえて、次に半開きだった裏の自宅へ続くドアからユアが現れた。腰に手を当て、瑞輝を見る。最後に見た時はショートカットだったのが、耳の上辺りで二つにくくった少女っぽい髪型になっている。だぶっとしたTシャツにジーンズという瑞輝とそう変わらない服を着ているが、やはり細くて丸みのある女子の体をしている。瑞輝は慌てて口の周りを拭いた。チーズケーキがついてると怒られそうだ。
「こらこらユア、こっちが無理を言って来てもらったんだよ」ユア父が言う。
「違うでしょ、パパが瑞輝が警察でいじめられてるんじゃないかって心配して呼んだのに、瑞輝はそんなことチーットも考えずに断っ…」
ユアは制服姿の警官に気づいた。そして手を口に当てる。
「大丈夫です」伊瀬谷氏は笑顔で言った。「警察でいじめられたのかい?」と瑞輝に聞く。
瑞輝は首を振った。
ユアはそんな瑞輝を睨んだ。嘘に決まってる。プイとユアはまた家の方へ戻って行った。今度はバタンとドアをしっかり閉めた。
瑞輝はその音の余韻が消えてから、小さく息をついた。
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