■ 土曜日 2 ■

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 喫茶ポルカを出て隣接するユアの自宅のすぐ横にコンクリート塀にプランターが並ぶ家があった。きれいに花が咲き誇っている。庭木も立派で、門扉も広くとってあった。門扉から前庭が見えた。芝生が見えて、ちょっとした花壇があった。その向こうに建っているのは、レトロな洋館風の三階建て住宅だった。 「ホントにあれ、古いの?」瑞輝が言って、ユア父は苦笑いした。 「エイジングって言って、古く見せてるんだよ。五年ぐらい前に建ったんだ。見てわかると思うけど、割とお金持ちの家なんだよ。ゴミが捨てられるのは、この門扉の周辺。敷地内だったり、門の前だったり、門にゴミ袋が引っ掛けてあったりもするみたいなんだ」 「ふうん。今はない」 「そうだね、毎日ってわけじゃないんだ。でも続く日もある」 「風が強い日とか?」  そう言われてユア父はきょとんとした。「風?」 「違った?」瑞輝は首をかしげた。 「いや…そういう統計は取ってなかった。曜日とか、何かのイベントがある日とか、そういうのに関係していると思っていたから」 「関係してました?」 「関係性は見つからなかったんだ。風か。思いつかなかった」 「あとは雨の降る日とか。夏だけ、冬だけってこともある。月が関係してることもあるし」 「わかった。調べてみる」 「たぶん風だよ。溜まりやすいんだ」 「何が?」ユア父は瑞輝を見た。 「風が」  瑞輝が中空を見ながら言って、ユア父は黙り込んだ。娘が時々言っていたことを初めて実感する。瑞輝って何言ってるかわかんない。わかるんだけど、わかんないの。 「で、改善策は?」  そう言われて、瑞輝はじっと家を見た。「怒るから言えない」 「怒らないって」ユア父は笑った。  瑞輝は首を振った。門の方角を変えたら、とか言えない。トンネルの時みたいに怒られる。 「今日はゴミがないからわかりません。また別の日に見ます」  ユア父はもうちょっと粘って改善策を聞き出したかったが、夜であることと、瑞輝の口が堅そうなので諦めることにした。「そうか。じゃぁまたゴミの出た日に連絡するよ」 「行けない日もあるけど」 「君の都合でいい。ユアの携帯から連絡するよ。家には内緒なんだよね?」  瑞輝はうなずいた。 「伊吹山まで送ろう。自転車が壊れたって? 一体誰に囲まれたんだい?」 「いや、転んだんだって」 「ホントに最近の若い奴はデマを鵜呑みにして困ったもんだ」 「おじさんは人の話を聞いた方がいいよ」 「聞いてるさ。金剛寺に自転車を置いて行くんだろう。ワゴンだから乗せられる。おいで」  瑞輝はグイと服を引っ張られた。しょうがない。もう断りきる根性もない。乗せて行ってもらおう。  ユア父の運転する車体にポルカと書かれたワゴンに、警察官と一緒に乗った。伊瀬谷氏は「君のお兄さんに届けると約束したから」といかにも堅そうなことを言って、結局は俺を監視してるんじゃないかと瑞輝は思った。  金剛寺の駐車場の端に自転車を置き、車は伊吹山に登った。  ユア父と伊瀬谷父は、同い年の娘がいると知って、かなり子育て話に盛り上がっていた。瑞輝はつまらないので目を閉じて寝ていた。  ユア父と伊瀬谷父は、瑞輝の家までついてきた。そして晋太郎と小一時間話をしていたようだが、瑞輝はさっさと晩飯を食い、風呂に入って寝たから彼らが何で盛り上がっていたのかは知らない。おおよそ、十七の子どもの面倒を見る大変さとか、車の中で喋っていたようなことに違いない。  興味ない。
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