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「さて、じゃぁ組んでみるか。剣がいいか? 組み手がいいか?」
山本は両手を組み合わせて、ニコニコしながら言った。
瑞輝はジャージに着替えてスニーカーで本殿の裏横の空き地に立つ。その横では晋太郎の家が建築中で、棟梁と三人の大工が働いている。昨日は壁に防水とか防音とか何とかシートがどうのって話をしていた。けっこう家らしくなってきた。
「剣、持ってないし」瑞輝は辺りを見た。「そういうのやるなら、金剛寺の武道場借りたら良かったんじゃないですか?」
「バーカ。おまえが壊すだろ、危険だ。外ならまだマシだろうけど」
「壊しませんよ。今までも壊した事ないし」
「今からやるのは、今までと同じことだとでも思ってるのか?」
山本は大きな目で瑞輝を睨んだ。ついでにグイと手を伸ばして、瑞輝の首を掴む。
「生意気言ってると、息の根止めるぞ、ガキ」
伊藤さんと一緒だ。瑞輝は息を飲んだ。乱暴者ばっかりだ。
「じゃぁ、組み手な」
パッと手を離して、山本は笑顔に戻った。瑞輝は首をさすった。
「いいか、坊主、まずは半分の目盛りを刻め。ゼロか百じゃなく、五十を出す。おそらく、俺がフルパワーで行ったら、おまえは俺よりタッパもウエイトもパワーもないから、付加価値に頼らざるを得んだろう。でも俺に怪我をさせないようにと思うと、龍気はゼロにしてしまうはずだ。そのコックをちょいと開け。やりすぎると俺が死ぬぞ。俺を殺したら、承知しないからな」
瑞輝は眉間にしわを寄せた。意味わかんないし。
「でもいつまでもゼロのままだと、今度はおまえがキツいぞ。明日も寝込むかもしれない」
それはマズい。瑞輝は山本を見た。
「いきなり実戦ですか? イメトレとかなし?」
「そんなもんが意味ないことは、金剛寺で証明済みだろう。おまえみたいなバカは実戦でしか学習できないんだよ!」山本は言い終えるなり、瑞輝にパンチを繰り出した。
辛うじてそれは避ける。
瑞輝は続いて繰り出される攻撃を何とか避ける。
「逃げてばかりだと足場の悪いところに追い込まれるぞ」
山本の忠告通り、瑞輝は材木の積んである方へ追い込まれつつあった。
攻撃ね、攻撃。相手を止める程度の、適度な攻撃。
瑞輝が山本のパンチを繰り出した腕を掴もうとすると、山本に反対に掴まれて背中にねじりあげられた。
「何を怖がってる? 俺を殺す事か?」
瑞輝は腕を解放されて座り込み、山本を見た。悔しいが言葉が出て来ない。
「考えるな。とにかく体を動かせ。頭で理解するもんじゃない」
山本はそう言って、ニッと笑った。
「ほら立て」
瑞輝は唇を噛んで立ち上がる。
「良し来い」山本は指を立ててクイクイと瑞輝を招いた。
何だ、ありゃぁ。ケンカでもなさそうだし。
大工の棟梁は足場の上から瑞輝と山本を見ながら思った。
神社の兄ちゃんが、ガタイのデカイのと真剣な顔してケンカしてる。
しかし止めるつもりは全くなかった。棟梁が見る限り、そこにはゆるやかなルールがあるようだったし、双方はそれを互いに理解してやりあっているように見えた。そしてガタイのデカイ方が、神社の兄ちゃんにレベルを合わせてやっているようなのもわかる。気持ちのいいケンカだ。
昔はこういうケンカもよく見たものだ。棟梁は目を細めた。
第一、やられる一方の神社の兄ちゃんの目がキラッキラしてらぁ。ありゃぁきっと楽しいんだ。
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