■ 水曜日 2 ■

7/9
前へ
/165ページ
次へ
 吉野をボッコボコにはしなかった。女子に告白されると思ってやって来たら、瑞輝がいたので吉野はそれだけで相当のショックを受けていた。そして何をされるのかと身構えた。が、瑞輝が「俺を嫌うのはいいが、あれは彼女の作品で、それを故意であってもなくても壊してしまったことを彼女に謝って欲しい」と言ったら、吉野は意外とあっさりと謝ってくれた。  瑞輝は渡瀬チョコに「つきあってくれてありがとう」と彼女を先に屋上から帰した。その先の吉野との話を彼女に聞かせる意義は特にないと思ったからだ。  実のところ、ああいった嫌がらせはあまり効果がないんだと瑞輝は彼に説いた。俺が期待したほどダメージを受けないからといって怒ることと、俺の周りのヤツに迷惑をかけることは反則だと覚えておいてほしい。それだけ守ってくれたら、根も葉もない噂を流すのも好きにすればいい。  そう言うと、吉野はムスッと黙っていた。  話はそれだけだった。楽しそうに付き添っていた城見が不完全燃焼だとぼやいたが、瑞輝としてはこれで良かった。完璧だと思った。  朝の件で職員室に再度呼び出され、物理教師の努力が実ったのか、自転車に乗っていて怪我をした三年生と和解が成立した。もしかしたら保護者からクレームがくるかもしれないが、そのときは学校が対応するからと説明された。うちの義兄もそういうのには慣れてる、と瑞輝が言うと教師たちは苦笑いしていた。  帰りにオオグスってのを見て帰ろうと思った。  校門を出ようとしたとき、渡瀬チョコと伊瀬谷京香が自転車置き場の影にいるのが見えた。渡瀬チョコがうつむいていて、テニスのラケットを脇に置いた伊瀬谷京香がなぐさめている風だったので、瑞輝は吉野がもしかして彼女に何かまだ他にもやってたんじゃないかと思った。それで近づいたら、京香が立ち上がって「何の用?」と怒りの形相で言った。  瑞輝は京香の後ろに見えるチョコをのぞいた。「大丈夫かなと思って」 「何が?」京香は腕を腰に当て、ますます怒りを増幅させる。「関係ないでしょ。さっさと帰りなさいよ。チョコにもう話しかけないでよね」  瑞輝はトンと肩を突かれて困惑した。 「吉野が何かした?」 「はぁ?」京香は瑞輝を睨んだ。「吉野君は関係ないでしょ。ホントに怒るよ」  怒ってんじゃん。瑞輝は仕方なく、そのまま引き下がった。  あれはどう考えても俺に怒ってるな。瑞輝は歩きながら考えた。マカロンは気にするなと言ってくれたのに。あの時は笑ってたのに。  女ってのは意味がわかんねぇ。おっと、そんなこと言うとユアに怒られる。  瑞輝は校門を出て、いつもと反対側に曲がった。伊瀬谷京香の家がある方向だ。オオグスを見に行く。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加