■ 木曜日 2 ■

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「じいちゃんが俺の目に龍が棲んでるって言ったし、龍はいつか俺を飲み込むって言ってた。そうならないように努力しなさいって。だから言われたことは頑張ったけど、じいちゃんが死んで、どうなるのかわからなくなって、それで俺は龍になっちまうのかなって思ってた。伊藤さんが来て、いろいろ教えてくれなかったら、もっと困ってたと思う」  山本はうなずいた。そうか。だから悔しいほど伊藤には弱いんだな、この子は。 「伊藤さんは、俺の事、人間じゃないって言った。どっちかっていうと人間の敵で、もしかしたら全部の命の敵かもしれないって」 「言いそうだな」山本は苦笑いした。 「でも気にするなって言ってくれた。もしそうだとしても、しょうがないだろって。俺は俺でやりたいようにやったらいいって。虎になった人にも、そう言ってくれる人がいたら良かったのにな」  山本は伊藤を少し見直しそうになった。 「俺が本当に龍になったら、晋太郎は動画に撮ってサイトに投稿するって言ってた。そう言ってくれる人もいれば良かった」 「時代がメチャクチャだけどな」 「どうせ虎になるなら、格好いい虎になれって言ってくれるだけでいい」  山本はため息混じりにうなずいた。わかるような気もするが、きっとこんな奴が高校の同じクラスにいたら嫌だろうなとも思う。 「俺の技も剣も、人を殺せる」  また話が別方向に展開した。 「だから人より上からものを見てるって言われたこともある。人を見下してるって」 「先生にか?」山本は、やはり学校生活も苦労してそうだなと思った。 「別の先生に。伊藤さんに言ったら笑ってた。違うって。人だけを見下してるんじゃない。全部を見下してる嫌味な奴だって。何だかそう言われたら、気持ちが軽くなった」 「なんで?」山本は首をひねった。 「なんでかな」  瑞輝自身もわからないようで、小さく自嘲気味に笑った。  山本も一緒になって笑った。虎になっても笑える気がして、おかしくなった。
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