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下に用ができたと瑞輝が言って、山本は彼を車で麓の町まで送ってやった。
「帰りはどうするんだ」と山本に聞かれ、瑞輝は小さく肩をすくめた。
「何とかするよ」
山本は眉を上げたが何も言わずにうなずいた。「もう夜だから気をつけろよ」
瑞輝は車に手を振った。
携帯にユアの携帯からのメールが入っていた。昨日の夜にまたゴミが出たらしいと。
木曜定休の喫茶ポルカの隣の家に行くと、ゴミはすっかりきれいに掃除されていた。瑞輝はじっと門を見上げた。西洋風の飾りの多い門だった。高さは瑞輝の顔のあたり。背伸びをすれば門の上から中をのぞける。少し屈めば門の隙間から中が見える。芝生と石の道と花壇。幸せの象徴のような。噴水でもあったら完璧なのにと瑞輝は思った。
後ろから人の気配を感じて瑞輝は振り返った。
「やっぱりおまえか!」と怒声を浴びせられ、瑞輝は門に背中をつけた。「どういうつもりだ、人の家にゴミを入れて何が楽しい。こっちは困ってるんだ。うちの子は動物アレルギーなのに野良猫が来たりカラスが来たりする。ひどい時は喘息の発作が出る。これはイタズラなんかじゃない。下手したら殺人だ!」
ユア父や伊瀬谷父ぐらいの男に、体をグイと押し付けられて瑞輝はどうしたらいいのかわからなくなった。悪意ある相手への対処ならわかる。取り押さえればいい。そうじゃない場合はどうしたらいいんだろう。そこまではまだ習ってない。
「防犯カメラにも何度かその黄色い髪が写ってたぞ」
「俺じゃない」瑞輝はそう言ってみたが、相手が聞いてなさそうだなと思った。しかしどうやら聞いていたようで、「何を」と逆上して殴られた。もちろん避けることは技術的には可能だったが、避けて門に拳をぶつけて骨を折り、ビジネスマンに休業補償とか言われたくなかった。しかし防御ぐらいはしてもいいだろう。
ガッチャンガッチャンと鉄製の門に背中を当てられながら瑞輝は顔を腕で守った。
数発殴ると相手も満足したようで、はぁはぁと息を切らせながら動きを止めた。瑞輝は恐る恐る顔を上げ、相手を見た。黒ブチ眼鏡がズレていて、瑞輝は笑いそうになった。我慢して唇を結ぶ。
「小宮さん」
物音に気づいたらしく、家からユア父が出て来た。
「入間君」とユア父が言うのと、瑞輝が「おっす」と手を上げるのと「高木さん、捕まえました」と小宮氏が瑞輝を再び門に押し付けるのとは同時だった。瑞輝は頭をバラの形の鉄の飾りで打ち付けて、手で押さえた。
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