■ 木曜日 2 ■

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 ユア父が事情を説明し、小宮氏は何だかよくわからないような顔をしていた。そりゃそうだろう。  小宮氏は文房具会社の社長で、介護か何かのために何年か前に引っ越してきたのだそうだ。瑞輝の噂も少し知っていた。隣のユア父にゴミの話を相談したら、知り合いに見てもらえると言うから喜んでいたところだという。それが瑞輝でガッカリしたという顔をしていた。瑞輝は原因を聞かれて困った。本当のことを言うとまた殴られるかもしれない。 「君の個人的な意見でいい」ユア父が仲介してくれたので、瑞輝は息を大きく吸い込んだ。そして吐く。 「個人的には、門の場所を変えることをお勧めします。反対側に」  それを聞いた小宮氏は少し不服そうだった。瑞輝は他に何とも言えずに黙っていた。仕方ないから、金剛寺と義兄の宮司を紹介してやってもいいと言うと、小宮氏も少しホッとしたようだった。  瑞輝は殴られた時に手を少しと、頭を少し怪我していた。  それを心配するユア父を安心させるつもりで「大丈夫だ、俺はいつももっと殴られてっから」と言うと、ユア父が「誰に?」と聞いてきてまた困った。誰にだっていいだろう。 「気にかけてくれて嬉しいよ」  小宮氏と別れてから、ユア父は言った。喫茶ポルカは定休日だったから、家の方に寄っていけと言われた。  瑞輝は驚いて首を振った。ユアの家だ。心臓がバクバクした。 「どうして。子どもの頃はよく来たじゃないか」ユア父は瑞輝の手を見た。「怪我もしてるし」  瑞輝は指の関節のところを擦りむいているのを見た。「こんなの」 「絆創膏を持って来るよ。こっちで待ってて」  ユア父は玄関のドアを開き、ドアをストッパーで止めたまま瑞輝に言い残すと、中に入っていった。  瑞輝はこのまま逃走しようかなと思ったが、「ユア、絆創膏なかったかな」とユア父が言っているのを聞いて逃走を断念した。ユアには言わないといけないことがある。  えー、あったでしょぉと声がして、階段をユアが下りて来た。ピンクのタンクトップにジーンズのハーフパンツ。足は裸足だ。タンタンと階段を降りて来て、玄関先の瑞輝を見ると驚いて「キャァ」と言った。瑞輝は慌てて後ろを向いた。  ちょっとパパ、なんで瑞輝がいるのよとか言っている。瑞輝はやっぱり帰ろうと思った。  後ろでユア親子が何か言い合っている。瑞輝はちょっと中に声をかけた。 「俺、帰ります」 「待って待って、絆創膏」ユア父が急いで戻って来た。瑞輝はそれを受け取って帰ろうと思ったが、ユア父は瑞輝の腕を取るとグイと引っ張った。 「ここも怪我してる。入間さんにお詫びしないといけない」とユア父は自分の額を指差した。瑞輝はそれを見て同じように自分の額に指をやった。ああ、確かに痛い。血も滲んでる。きっと明日は青タンになる。でも大したことじゃない。明後日には腫れも引く。
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