「黄色い雪の物語」

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 彼女はいつも鈴の音がしていた。 それは彼女の持っている鍵という鍵すべてに鈴がついているからで、本人曰く、落とした時にすぐ分かるように、というのが理由らしい。でも、わたしに言わせればうるさくて仕方がなかった。外出した時はもちろん、部屋の中でも鈴の音が彼女のポケットの中でりんりんと音が鳴っていた。 「ちはるは神経質ね」 彼女は音を指摘したわたしにそう言った。 神経質?四六時中、りんりんと鈴を鳴らして気にならない母をわたしは逆に無神経だと思う。家に帰って来た時も、自分の家なのに、チャイムを鳴らす。しかも、連続で3回も。時代錯誤の訪問販売じゃあるまいし、そんなにしつこく音を鳴らさなくったって、わたしが家にいればすぐに鍵は開けるし、そもそも、自慢の鈴のついた鍵を使えばいいのに、と思う。  正しくは、そう、思っていた。  三年前の今日、彼女は亡くなった。りんりんとうるさく鳴る鈴の音はパタリとしなくなり、家のチャイムが3回鳴る事は永遠になくなってしまった。わたしは15歳で、幼かったけれど、でも人が亡くなるということを正しく理解できる歳だった。弟はまだ4歳だった。
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