「黄色い雪の物語」

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   全身が布に包まれて、手には毛布のほわほわ感があるのに、冬の朝は頬の温度の低さで目が覚める。雪が降る日は尚更。  わたしはベッドから降りようと足を布団から出した。瞬間、空気中の冷気に体温が移動する。足の裏にくっついた床にも熱が移動する。 「おねぇちゃん、おきた?」 横のベッドから眠そうな康太の声がした。 「起きたよ。今日は寒いね」 わたしはカーディガンを羽織って、窓に近づく。足を包む冷気が鋭さを増す。カーテンを開けると、外は真っ白だった。 「雪が降ってるね」 康太の声は弾んでいた。雪は静かに、無風でまっすぐと降りて来ていた。積もった雪の量で短時間での経過ではないことが分かった。しんしんと、でも、しっかりと。ずんと持ち上げたら重量を含んでいそうな雪。だけど、家の中から見たら、ただ美しい。 「がっこうやすみにならないかなぁ?」 康太は小さく呟いてわたしをこっそりと見た。返事をせずに肩を少しだけあげて、テレビのチャンネルを一瞬見た。 「警報でもでないと休みにならないんじゃない?」 康太はすかさずベッドから抜け出し、とたたたた、となるべく床と足の接地面を減らした走り方で、テレビをつけた。残念ながら、天気予報では注意報のみで警報は出ていなかった。 「こんなさむい日はがっこう、やすみにしてくれたらいいのに。そしたら、べんきょうがんばるのに」 若干の矛盾が生じる発言をしながら、康太は制服に着替えだした。わたしは軽く笑って、仕事へ行く準備を始めた。 「起きたか?朝ごはん出来たぞ」 穏やかな低い声と共に父が顔を出した。茶色の細いフレームメガネの奥で小さな目がわたしと康太を見た。  2人でダイニングに向かって朝食を取り、先に父と康太を見送った。わたしの仕事は昼前からなので、もう少し後に家を出る。  雪が降った日はいつもの冬の日より世界が明るく感じる。窓に近づき、カーテンを開けると、降っていた雪が黄色く見えた。目の錯覚かと思い、まばたきをすると、雪は益々黄色みを帯びた。 黄色い雪が降っていた。 降り積もった白に、黄色い粉がまばらに散りばめられたように雪を侵食していく。 「あれ?」 1人呟いて、目を擦ると、わんっと鳴き声が足元でした。 白い毛並みの小型犬がわたしを見上げていた。見覚えがある犬だった。窓を開けると犬はさっと家に上がり込んだ。 「わっ、ちょっと、足拭かないとっ」 床が汚れる、と言おうとして、犬が半透明である事に気付いた。ギョッとして、窓を勢いよく閉めた。 「な、なんか、この犬、透けてる??」 「そうです。透けてます」 しかも、喋った。赤い首輪に金色のネームプレートにポチと表示されている。隣の家で飼っていた犬だった。去年、亡くなったはずだ。あ、だから半透明なのか。って納得してる場合じゃない。 「ポチの幽霊?」 恐る恐る浮んだ正解に近いであろう問いを口にする。 「ご名答!さすが、ちはるさん!」 「さすがはって……、ね、幽霊って言っても怖くないね。なんか可愛いし。でも、犬でも幽霊になったら喋れるのね」 「それはオプションです!」 ポチは自信満々でフンっと鼻を鳴らした。オプション。笑ってしまう。 「いいね。人間と喋れるオプション付けてもらえるなんて、粋な神様だね」 「そうです!お使いのご褒美につけてくれました」
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