なんでも取り寄せ機

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なんでも取り寄せ機

 「ついに出来たぁぁぁ!!」その日、マッドサイエンティストの北島こと私は歓喜のあまり絶叫した。 「喜びたまえ!仮屋崎くん!とうとう研究の成果が実ったよ!」私は興奮しながら大きな歓声を上げた。 「北島博士!おめでとうございます!長年研究されていた、あれですね!」助手の仮屋崎も両手を上げて万歳しながら喜んでいる。 「そうだ、あれだ!」 「次元物質転送装置ですね!」 「そう名付けて『なんでも取り寄せ機~♪』だ」なぜか、私はその機械の名前を呼ぶときだけ、ダミ声のような声色を出してしまう。 「本当におめでとうございます。これで何でも好きなものが手に入りますよね」仮屋崎は目を輝かせた。 「君なら何が欲しい?」私は声を小さくして聞いた。部屋の中には二人しかいない。 「そうですね。宝石、金、お金ですかね」仮屋崎は腕組をして答えた。しかし、考えた割には平凡な答えだった。 「そうだ、軍資金だ!世界征服にはお金がかかるのだ!」ちなみに私達二人は悪の組織を結成して世界征服を目論んでいる。組織の総メンバーは二人だけなのだが……。 「それでは、銀行、いえ宝石店から……」仮屋崎は機械の調整に入ろうとする。 「君は馬鹿かね。銀行からお金、宝石店から宝石が無くなると足がつくだろう」私は仮屋崎と機械の間に割り込むようにして操作を始める。 「それでは、一体?」 「子供の頃に考えた事がなかったかね?日本人は一億二千万人、一人一人に一円ずつ貰いに行けば……」私はニヤリと微笑んだ。 「一億二千万円!!」仮屋崎はその金額に再び歓喜の声をあげた。  彼は、とても世界征服を目論む組織のメンバーとは思えぬ金銭感覚であった。 「そうだ、この『なんでも取り寄せ機~♪』をつかって日本中の財布からお金を抜き取るのだ」私は鼻高々に計画を仮屋崎に話した。 「なるほど」仮屋崎は感心している。 「しかも今回の計画では、10円だ!」 「じゅ、10円、それでは10倍の12億円!!」その数字を口にして仮屋崎は目眩がして倒れそうになった。 「そうだ!考えてみたまえ、日本の硬貨にはナンバリングが無い。そして財布から10円が無くなったところで気づく人間など皆無のはずだ」 「そうですね。たとえ気がついても警察に届ける人間などいないでしょうし!」仮屋崎は尊敬の目で私の顔を見つめた。 「そうだ!その通りだ!機械を稼働させるぞ!」 「はい、博士!」 「『なんでも取り寄せ機~♪』起動!」私は機械のスイッチを入れた。機械が独特の音をあげながら動き出した。 「ハハハハハハハハ!」私の声が高らかに響き渡った。  夜の食卓の時間。  ある家族がテレビのバラエティーを見ていた。 「ここでニュースです。本日、東京都内の民家で大量の10円硬貨が見つかり中から男性二人の遺体が発見されました。10円玉の枚数は約一億枚とみられ、どこからこの大量の硬貨を集めたのか、ただいま警察にて調査中とのことで……」
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