祖母の家――2019年、夏 (1)

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祖母の家――2019年、夏 (1)

「誰にでも『キセキの1枚』っていうのは、あるもんだねぇ」  8分の1にカットしたスイカが5、6切れ乗った盆をちゃぶ台に置き、ばあちゃんは失礼な感想を呟く。  ミィンミィンと騒がしい蝉の声。それでも、都会で聞く脅迫めいたヒステリックな大合唱とは違い、気ままな独唱は広い青空に溶けていくようだ。 「ちゃう。美少年だったんだよ――昔は」  今は、どこにでも転がっている凡庸な顔になっちまったけどな。  反論しつつ、やや黄ばんだページの写真を眺める。  「月刊フォトマニア」というカメラ愛好家のための専門誌。そのアマチュアコンテストの受賞作品発表ページに、幼き日の僕が居る。提灯や出店の灯りが幻想的に滲む中、青と白の縦縞の浴衣を着て、左手に赤い金魚の入ったビニール袋をぶら下げた、ショートカットの子ども。無垢な表情は少年とも少女ともつかず、微笑む直前の一瞬の眼差しが、奇跡的な凛々しさを見せている。自分だと思えば照れくさいが、現在の容姿(すがた)とはあまりにもかけ離れているので、てらいなく見ていられる。ページの半分を占める大きく引き伸ばされた写真の右上には、「特賞」という極太の明朝体が添えられていた。 「はいはい。あんたも食べなさい」  目尻のシワを深くして、盆の中からスイカを一切れ、銀色のタライの上でシャクリと囓る。瓜科特有の青い匂いと共に、赤い汁が滴る。  7年前の雑誌を閉じると、僕も倣ってスイカにかぶり付く。瑞々しく甘い味は、ばあちゃんの畑で採れた小玉だ。しばらく蝉の声を背景に、無言でスイカを味わった。
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