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「アイツとは、同じ学部でね。授業や学食で顔を合わせる機会が多くて――入学して間もなく話すようになったんだ」
ゴクリ、と再び音を立て飲み干すと、彼はマグをテーブルに置いた。
「その内に、互いのアパートを行き来したりして。1年近く経った頃、航の本棚で、アレを見つけた――」
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あの夜、俺はバイト仲間と飲んで、終電を逃しちまった。手土産代わりにコンビニで発泡酒を買って、航の部屋に転がり込んだ。
仕様がねぇなと呆れつつ、アイツは一緒に夜明かししてくれた。
飽和した気怠い空気の中、迎えた朝方――。
『へぇ、お前、カメラが趣味なんだ?』
俺はソファに寝転がりながら、本棚に並ぶ雑誌の背表紙を眺めていた。やや色褪せた1冊が気になって、何気なく抜き取った。「月刊フォトマニア」、2012年12月号――その月の号だけポツンとあった。
『あ、うん……まぁね』
ベッドに腰掛けた航は、妙に歯切れ悪く、缶チューハイを啜った。
『あ。これ、お前? 特賞? 凄いじゃないか!』
ページを捲っていた指先が止まる。
『まぐれだよ』
友人の知られざる才能に有頂天になった単純な俺とは対照的に、航は何故か辛そうな表情を浮かべて吐き捨てた。
『この子、お前の弟か? すげぇ……可愛いなぁ!』
他意はなかったんだ。年端もいかない幼さの中に、凛とした眼差しが同居する――印象的な美少年だと思った。
『止めろっ!』
突然、航は俺に飛び掛かってきた。頬を赤くして、やたらめったに殴ってきた。
アイツは、普段は温厚で華奢な体格だったから、俺は腹を立てるよりも、酷く驚いてしまった。
『ま、待てよ! 気に障ったなら謝る! 馬鹿にしたんじゃないって!』
即座に全面降伏したものの、何故か逆上した航は、俺に馬乗りになって拳を振り回し続けた。そのクセ、目尻には涙を滲ませている。
『何だよ! 彼女や妹じゃあるまいし! 弟なんだろっ?! 訳わかんねぇよ!』
両腕で顔をガードしていた俺は、思わず口走っていた。
不意に――飛び掛かってきた時と同じくらい唐突に、身体が軽くなった。
クリーンヒットは一発もなかったから、ダメージは受けてない。けど、航の豹変にショックを受けていた。
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