バケモノの眼

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 ***  これが普通に“仲良し”の友達の誘いだったなら、どれだけ気が楽であったことかと思う。  しかし、僕はよく知っているのだ。ソータ君が普通の遊びに僕を誘うはずがない。ただの“探検”なら、いじめの標的である僕に声をかける理由がないのだ。どうせ、ろくでもないことを考えているに決まっているのである。 「裏山にさ、ボロボロのトタン屋根の小屋があるだろ。ホームレスかなんかが住んでたのかなんなのか知らねーけど」  この季節、放課後に学校の裏山を歩き回るのは少々肌寒い。今日はまだギリギリ半袖で過ごすこともできるが、天気予報によれば明日の朝に一気に気温が冷え込むという。秋は確かに近づいてきている。僕はぶるり、と肩を抱いて体を震わせた。上着を持ってくれば良かったと思うが、寒さを感じるのは気温のせいだけではない。 「その小屋の近くに、古い井戸があるんだ。水は入ってるのかどうかはわかんないし、そもそも水を汲む桶があるかどうかも怪しいけど。でさ、その井戸の中には、なんとバケモノが住んでるらしいんだよなあ」  ああ、本当に最悪だ、と僕は思う。ソータ君は絶対わかっていてやっている――僕が、オバケの類が大の苦手であるということを。というか、暗闇になるだけでパニックになるくらい、怖いものがダメなのだ。オバケが本当にいるかどうかなんてわからない。でも、いないという保証もない。それが“バケモノ”と呼ばれるものともなると、もっと定義は広がることだろう。  彼はそれを、みんなで確かめに行くのだと言い出したのだ。  当然、自分を連れてきたからには――ろくな役目を振られないことはわかりきっているのである。間違いなく、最初に井戸を“覗く”役目を押し付けられるのは確定だ。場合によっては井戸の中に降りろとまで強要されることだろう。 ――嫌だ嫌だ嫌だ……そんなの怖い、絶対嫌だ。逃げたい、逃げたい……!  想像するだけで恐ろしい。それなのに、山道をずんずん進むソータ君を、足は自動で追いかけていく。僕の後ろには、まるで見張りをするかのようにユイ君がしんがりと務めている。絶対に逃がしてなど貰えないだろう。ただでさえ、僕は足が速くないのだ。
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