バケモノの眼

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――どうして、どうして僕ばっかり、こんな目に遭わないといけないんだよお……!  いつもそうだ、と思う。何かを頑張ろうとしても全部が空回り、悪い方向にばかり目立ってしまう。まだ九年しか生きていない短い人生だが、それでも面倒なヤツに目をつけられる確率だけは異様に高いと言っていい。四年生になったら、前のクラスの“女王様”だったマユミちゃんからは逃げられると思ったのに――どうして今度はソータ君と同じクラスになってしまったのだろう。  みんなソータ君が怖いから、全然助けてくれようとはしない。男の子達はみんなソータ君に怯えているし、女の子達は自分は無関係とばかりにスルーしているこの状況。そして、僕には力もなければ勇気もない。あと半年近くも、ソータ君のご機嫌を伺ってびくびくしながら生活しなければいけないのだろうか。そう思うと、目の前が真っ暗になってしまう。 「ここだな」  考えている間に、無情にもその時が来てしまったようだ。ボロボロの青いトタン屋根の小屋が見える。あちこち穴があいて錆び付いていて、いかにも何年も人が住んでいないといった様子だ。むしろこんなところで誰かが生活することができたのだろうか、と思うほどである。  どうか井戸なんてものはありませんように。バケモノの噂なんて嘘でありますように――僕は心の中で必死にお祈りをした。けれど。 「ソータ君!あったあった!井戸ってさ、これのことじゃね?」  カズ君の弾んだ声が響く。僕は絶望的な面持ちでそちらを見た。 「おいあったってよ。行こうぜタケミ!」 「う、うん……」  僕の気持ちをよそに、ソータ君は素晴らしい笑顔で僕の腕を引っ張る。その強い力と圧力に、一体どうすれば逆らうことができようか。僕は引きずられるようにして、カズ君が呼んでいる方に歩いていった。ああ、本当に体が重い。息が苦しい。大した距離を歩いたわけでもないというのに。  そこは、小屋の裏手。日当たりが悪くてじめじめした雑草が覆い繁る中、まるで隠されているかのように佇む井戸があった。シミだらけ、カビだらけの木の蓋がかぶせてあり、さらにそれが開かないようにか漬物石のような大きな石がどっかりと乗せられている。 「おいタケミ、開けろよ。中にバケモノがいるかお前が確認するんだ」 「で、でも」 「なんだよ、まさか俺に逆らうってんじゃないだろうな?“友達”のお願いが聞けないのかよ?」 「!」  肩に腕を回され、耳元で凄むソータ君。僕はぶんぶんと首を振った。ただでさえ今でもキツイ扱いなのに、本当に“友達じゃない”と彼の中で認定されたらこれから先どうなるか。僕は、生きたまま地獄を見たくはない。震える手で、漬物石のように重たい石を抱え上げた。とてもずっしりとしていたが、両手で一生懸命支えれば、非力な僕でもなんとか持ち上げられない重さではなかった。  あの石は、何かの封印だったりしないだろうか。そんなことを思ってしまう。わかりやすいお札が貼ってあるわけでもない。きっと、蓋が風に飛ばされることのないように重石にしているだけなんだろうと理性ではわかっている。それでも“バケモノ”や“恐ろしいもの”を期待するいくつもの視線と、実際にソータ君が聞いたという噂が僕の足をすくませるのだ。
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