バケモノの眼

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バケモノの眼

「おいタケミ!ちょっと来いよ!」  後ろからかけられた声に、僕はびくりと肩を震わせた。振り向くまでもない。この声どころか、足音が近づいてきただけで震えが止まらなくなる。僕のクラスで一番体が大きくて、一番乱暴ないじめっ子――ソータ君だ。  彼はいつも、同じような“いじめっ子仲間”を引き連れている。その一番の筆頭がカズ君とユイ君。ソータ君が一番信頼する取り巻きで、ソータ君の命令ならなんでも聞くと知っている。おかげでこの三人の顔や声を聞くと、僕はいつもびくびくと怯えなければいけない。  本当にどうしてこんなことになったのだろう、と思う。  クラスが一緒になってしまったのが運の尽きなのは確かだけれど、だからってこれほどまでにしつこくパシリを要求されているのは僕だけだ。クラス替え直後に、クラス一可愛い女の子のメグミちゃんと隣の席になって親しくお話したのがいけなかったのか。それとも自己紹介で少し面白いことを言ってみたらみんなに存外ウケて、そうやって目立ってしまったのがよくなかったのか。  いずれにせよ今、僕はソータ君と取り巻き二人、場合によっては他にも数名の男子からいじめを受けている真っ最中である。本当は学校になんか行きたくない。でも学校に行かないとお母さんが心配してしまうし、学校の先生が家を訪問して説得をしに来たら大騒ぎになってしまう。  何より、休んだりしたら後でソータ君に何をされるかわかったもんじゃない。いじめられていると言っても、お小遣いでお菓子を買ったりみんなの荷物持ちをしたりしていれば、そこまで酷い目に遭わされないと知っている。精々仲間はずれにされたり、笑いものにされたりするくらい。モノを隠されたり服を脱がされたりなんてことも、ソータ君の言うことを大人しく聞くようになってからはなくなった。  そう、だから。  僕は今の“安全”を少しでも保つためには、何がなんでもソータ君の言うことを聞かなくちゃいけないのだ。どんなに怖くても、嫌だと思っても、ソータ君に逆らうようなことなんかあっちゃいけない。だってソータ君は、中学生に間違われることもあるくらい体が大きな男の子だ。喧嘩じゃ絶対勝てない。そのくせ成績も悪くないから、先生もきっといじめられたと言ったって信じてくれないだろう。  だからゆっくり振り向きながら、僕は必死で作り笑いを浮かべるのだ。 「な、なあに、ソータ君」  地雷は何処にあるかわからない。そもそもここまで不興を買ってしまった理由が、未だに僕にはハッキリとわかってないのだから尚更だ。 「今日の放課後な、裏山に付き合えよ」  そんな僕の恐怖を知ってか知らずか、ガキ大将はにんまり笑って言うのだ。 「ちょっと面白い話を聞いたんだ。探検しようぜ」
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