セピア

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ささくれは、いつしか大きな傷になる。たとえ小さくとも……。 彼女の小さな棘は、大きく育っていた。 「大丈夫かい?」 「……はい……場々さんが、心配するほどでは……」 「心配させてはくれないかい? 父親としては無理だろうが・・・・・・」 久しぶりにアトリエで、“父親”と話していた。 写真を見たかった、のではない。自分では、どうしたら良いか? 分からなくなっていた。 彼とは、会社でも逢うのが今は辛かった。 「翠ちゃん・・・・・・私にできることはあまりないだろうが」 皺を刻んだ小さな笑顔で、目の前の”お父さん”は言う。 人に甘えることをできなかった自分が、とてももどかしく感じる。 「・・・・・・あの・・・・・・」 一度、切り出してしまうと(せき)を切ったようにとまらない。どんどんとあふれ出した気持ちが、大きな激流のように流れていく。 とまらない涙で、ハンカチはすっかり濡れてしまっていた。 嗚咽(おえつ)がおさまり始めた。ずっと、話が終わるまで待ってくれていた。 「ありがとう・・・・・・お父さん・・・・・・」 自然と、そう口にだしていた。 翠は気が付いていないが、場々には聞こえていた。とても小さく、涙声でかすれた声だったが。 アトリエから家に帰ると、自宅の玄関前に彼がいた。 しばらく、メッセージアプリで彼からのメッセージは見ていなかった。 今は、少しだけ彼と向き合うことができると、翠は思った。 不安と期待の入り混じった気持ち。彼への、正直な気持ち。伝わるか、届くか、わからない・・・・・・けれど、後悔はしたくはなかった。 母と父が、互いの気持ちを伝えあえずに辛い想いをし続けていたのを見たから。
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