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家に彼を招きいれた。
居間のテーブルにお茶を淹れて、向かいあって座る。
静寂の中に、心地よさがあった。
彼女の瞼は腫れていた。自分がいない所で、泣いていた、と思うと胸が苦しい。
今すぐ、翠を抱きしめたい……だが、できなかった。それを、彼女が受け入れてくれるか? 強い不安があった。
雅春を静かに見つめる。
何かを我慢している。でも、自分もだった。彼に、彼のぬくもりをたしかめたい。けれども、気持ちを伝えたい。
『愛している』
と。
翠の真っ直ぐな眼差し。雅春の心臓は、安堵感を覚えた。
ーー彼女と……この先…… ーー
「雅春さん……わたし……あなたのこと」
次に、続く言葉を待つ時間が長く感じた。冷や汗が滲みでそうになる。
膝の上の手のひらが汗ばむ。
続ける言葉に、迷いがあるのは。彼女も同じだった。
「雅春さん、あなたの隣に。これからも、居たいです」
「俺の……隣……」
「はい。あなたを……愛しています」
「……俺も……君を、翠を愛している」
最後の言葉を、互いに口に出してしまうと。想いをとめるモノが無くなり、互いを激しく求め愛はじめた。
夕焼けの西陽が、窓辺から差し込んでいる。桜の季節はとうに過ぎ、ふたりの重ねた時間が短かったのが嘘のように。
深く長い、奥まで、繋がりあう。
絡まった糸が解けて、1つの綺麗な糸。ただ、ふたりが離れないようにと紡がれる。
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