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翠と新しい時間を重ねていく。
彼女との時間の中で、写真と向き合うことが増えた。雅春にとっては、辛いものもあったが、再び写真を撮る悦びを噛み締めていた。
馬々と写真の話をすることも楽しかった。
ただ、写真家を一度諦めた自分を思い出す時、胸に詰りものが増えていく気がした。
「雅春さん?」
「・・・・・・・・・・・・」
何度も声をかけていても、彼の耳には届いていないことがたまにある。何かに、想いを馳せている。どこかを見つめている時間のとき。
彼と、母と住んでいた平屋に住むようになり、半年。翠は、彼に結婚を申し込まれていたが・・・・・・彼の両親と会ったことがなかった。
場々、翠の父親とは頻繁に会うのだが。彼の両親が、どこに住んでいるのか? 彼女はよく知らない。
尋ねると、「あぁ・・・・・・連絡は・・・・・・してみる」と濁した言葉が返ってくる。
不安がない、わけではない。彼のなかで、なにか抱えているもの。自分では、一緒に分かち合えないか? とも、考えたが。彼と自分のなかには、互いの入り込みすぎない距離感を壊したくないものもあった。
彼自身が、自分でソレに向かい合っている時期に、横槍をいれたくない。
今は、ただ、彼を傍で見守ることしかできなかった。
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