セピア

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小さな雑貨店に久しぶりに来た。 母の、写真。セピアの写真を失くさないために、いれる写真ケース。 母が好きだった桜色と、自分の名前の(みどり)と似た色合いの革のケース。刻印もして貰った。 店から出て歩いていると、見知った男性がとある場所から出てきた。 こちらに、気づいた様子で少し早歩きで来た。 「お疲れ様・・・・・・いや、こんにちは、だな」 「こんにちは」 「買い物?」 「はい・・・・・・沢野さんは?」 「あぁ、知り合いと少しね・・・・・・」 少し、訳ありな表情の彼に何か尋ねようとは思えなかった。 深入りしない、そう、行動しているところが翠にはある。そして、それは沢野からも感じられていた。 会話は最近、会社でもするようになったが。当たり障りのない話し。深く関りを人と持たない、それが沢野だった。 「コーヒー飲む?・・・・・・イヤなら、大丈夫」 「いや・・・・・・では、ないです」 彼に案内され、小さな喫茶店に入りコーヒーを飲んだ。 沢野は、断りをいれてシガレットケースからタバコを1本とり、吸っていた。 喫茶店から少し歩きながら、駅まで送ってくれた。 特に会話が弾んだわけではなかったが、心地良かった。沈んでいる気持ちは相変わらずだったが、何かが変わり始めていた。 それは、翠だけでなく・・・・・・雅春も同じだった。 週明け、会社でいつもとは違う二人だった。 何かが互いに変わる。 休憩スペースで、沢野が写真集を真剣に観ていた。 翠が入ってくると、隠すことなく手招きを少しして呼んだ。彼にしては珍しい行動だった。 内心、驚きつつ席に着くと、「好きな写真家の写真集」と言って見せてくれた。表情がどこか、嬉しそうで懐かしそうな瞳の彼に吸い込まれる。 「? どうかした?」 「えっ、いえ・・・・・・珍しいと思ったので」 「珍しい?」 「沢野さんが・・・・・・こうやって、声をかけるのが・・・・・・」
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