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写真を観て、翠はわかった。
この人が、あの写真を撮った人・・・・・・だと。そして、自分の父親なのかも知れないと。
「翠。こちら、場々悟さん。俺の家族、みたいな人・・・・・・かな?」
「君に、家族、と言われるとはな・・・・・・」
「似たようなものでしょう?」
雅春と場々の、雰囲気と会話に気持ちが少し和らいでいく。
感じたことがない、柔らかさ。温かさ。
翠は、気づかずに雅春の手を握っていた。
彼も、そっと握りかえす。それが、どことなくくすぐったくて嬉しかった。
「・・・・・・場々さん。初めまして、伊田翠と言います」
「はじめまして」
場々は、懐かしい表情で少し皺を刻んで笑顔になる。初めて見たときは、寂しい顔だった。
翠は、聴いてみたいと思っていた。母に結局教えてもらえなかったこと。自分の父親のこと。写真が出てきてから、ずっと知りたい気持ちを抑えられないでいた。
「この写真は、場々さんが撮られたものですか?」
1枚のセピア色の写真を差し出す。
その瞬間、彼の顔色は変わる。とても苦しい表情に。苦しめたい訳じゃない。ただ、知りたかった小さな好奇心が、母親が見せた表情と重なる。
震えた手で、場々が写真を持ち見つめると、「そうだよ」と答えて涙を流す。
泣き崩れそうな目の前の、男性の手をとり「ありがとうございます」と翠は言った。
互いの手が震えながら・・・・・・2人が落ち着いた頃、雅春はお茶を代わりに出し3人で飲んだ。
「ありがとう」
「いんです。これくらい・・・・・・」
「君は、雅春は・・・・・・諦められないんじゃないか? 写真」
「・・・・・・っ!!・・・・・・」
実の父親よりも、自分のことを理解してくれている悟のことを嬉しかった。ただ、今はその話は辛くもあった。
「写真?」
「あぁ・・・・・・俺も、昔はカメラをね・・・・・・」
翠の問いに、雅春の表情は少し硬くなった。踏み込むのを躊躇わせる。
自分には、結局、なにもできなにのかもしれない・・・・・・翠は、そう感じていた。人と距離を置くことに慣れ、憶えてしまった2人には。
週末、一緒に過ごす時間だけ・・・・・・必要以上に踏み込まない、互いにどこかで距離を作り続けていたから。
そんな2人に気づいたのは、場々だった。自分と同じ過ちを犯して欲しくない、何もせずに後悔に襲われている自分のようには・・・・・・。
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