セピア

8/17
前へ
/17ページ
次へ
写真を観て、翠はわかった。 この人が、あの写真を撮った人・・・・・・だと。そして、自分の父親なのかも知れないと。 「翠。こちら、場々悟(ばばさとる)さん。俺の家族、みたいな人・・・・・・かな?」 「君に、家族、と言われるとはな・・・・・・」 「似たようなものでしょう?」 雅春と場々の、雰囲気と会話に気持ちが少し和らいでいく。 感じたことがない、柔らかさ。温かさ。 翠は、気づかずに雅春の手を握っていた。 彼も、そっと握りかえす。それが、どことなくくすぐったくて嬉しかった。 「・・・・・・場々さん。初めまして、伊田翠と言います」 「はじめまして」 場々は、懐かしい表情で少し(しわ)を刻んで笑顔になる。初めて見たときは、寂しい顔だった。 翠は、聴いてみたいと思っていた。母に結局教えてもらえなかったこと。自分の父親のこと。写真が出てきてから、ずっと知りたい気持ちを抑えられないでいた。 「この写真は、場々さんが撮られたものですか?」 1枚のセピア色の写真を差し出す。 その瞬間、彼の顔色は変わる。とても苦しい表情に。苦しめたい訳じゃない。ただ、知りたかった小さな好奇心が、母親が見せた表情と重なる。 震えた手で、場々が写真を持ち見つめると、「そうだよ」と答えて涙を流す。 泣き崩れそうな目の前の、男性の手をとり「ありがとうございます」と翠は言った。 互いの手が震えながら・・・・・・2人が落ち着いた頃、雅春はお茶を代わりに出し3人で飲んだ。 「ありがとう」 「いんです。これくらい・・・・・・」 「君は、雅春は・・・・・・諦められないんじゃないか? 写真」 「・・・・・・っ!!・・・・・・」 実の父親よりも、自分のことを理解してくれている悟のことを嬉しかった。ただ、今はその話は辛くもあった。 「写真?」 「あぁ・・・・・・俺も、昔はカメラをね・・・・・・」 翠の問いに、雅春の表情は少し硬くなった。踏み込むのを躊躇(ためら)わせる。 自分には、結局、なにもできなにのかもしれない・・・・・・翠は、そう感じていた。人と距離を置くことに慣れ、憶えてしまった2人には。 週末、一緒に過ごす時間だけ・・・・・・必要以上に踏み込まない、互いにどこかで距離を作り続けていたから。 そんな2人に気づいたのは、場々だった。自分と同じ過ちを犯して欲しくない、何もせずに後悔に襲われている自分のようには・・・・・・。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加