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定められた運命
「お前は三日後に死ぬよ」
そうトニーが言われたのは、なじみの森で作業をしていたときのことである。
あまりの驚きに手に持っていた斧をすべり落してしまった。トニーの木こり人生で初めてのできごとだ。
「や、なんだ、お前は」
森のなかいきなり声をかけてきたやつを、トニーはまじまじと見つめた。
「私かい?」
全身を黒い布で覆っているそいつが不気味に笑う。その灰色の顔には生気が感じられず、ゆらゆらと浮いているように動いていた。この世のものとは思えないやつだ。そしてそのトニーの感覚は正しかった。
「私は死神だ。お前に死の宣告を言い渡しに来た」
「なんだって! どうしてこのおれが死ななければならない」
「そういう運命だからさ」
淡々としゃべる死神に対して、トニーはひどく混乱していた。
「そんなの嘘に決まっている。そうだ、嘘なんだ」
「お前がそう思うのは自由だ。しかし、お前がどう思っていようと、私はお前の運命に従って三日後にお前の魂をあの世に送るよ」
死神の声からは微塵も嘘を言っている感じはしなかった。これは、いよいよ本物の死の宣告ではないかとトニーは絶望した。
「なにか、なにか助かる方法はないのですか」
わらにもすがる思いだった。
「そうだね。お前の代わりの魂をひとつもらえれば、私としても文句はないさ」
「それは身代わりを出せと言うことですか」
「まあ、そういうことになるね」
死神の言葉にトニーは若干の安堵を得る。わずかな可能性だが、助かる道が見えたのだ。
「しかし、お前に身代わりになってくれるような人間がいるのかい。妻子もいないようだし、まさか年老いた両親を差し出すつもりじゃないだろうね」
「なんで知っている!」
背筋に冷たいものを感じた。まさに死神の言ったとおり。トニーはひとり暮らしの独身であり、遠く離れた田舎に唯一の身内である両親がいた。そして、それ以外に特別親しい人がいないのを死神はわかっているようだ。
「別に、身代わりになるならだれでもいいんだろう。人間ならそこら中にいるじゃないか」
トニーが強がりを言う。しかし、死神はなんでもお見通しの様子で、
「お前に見ず知らずの人間を殺せるなら、かまわないさ。それじゃあ、三日後にまたここで会おうじゃないか」
気味の悪い笑い声を残して、煙のように姿を消してしまった。
たしかに関係のない人を犠牲にするのは気が引ける。第一、そんなことをしたら自分が死神みたいなものじゃないか。
トニーは大いに悩んだまま、ふらふらと街へ降りていく。なにかあてがあるわけではないが、じっとしているよりは体を動かしているほうがまだマシだった。
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