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二人はしばらく無言で見つめあった。どちらにとっても、スキを見せることが死を意味しているのだ。
「あの・・」
「はい、旅人くん」
「こうしたらどうですか?」
「なに、言ってみて。でも絶対“ニンゲ・”は言っちゃだめですよ」
「言いませんよ」
「どうぞ」
「朝は4本、昼は3本、夜は2本ですよね?」
「ちがいます。昼2本、夜3本ですから」
「あ、そうか。えっと、それはケルベロスです」
「ケルベロス?地獄の番犬の?」
「はい、頭が3つの黒いわんこ」
「なんで?」
「ちょっとやってみてください。おすわり!」
怪物はおすわりした。
「4本ね。はい、ちんちん」
怪物は上体を起こし両手を胸につけた。
「2本ね。じゃあ、お手」
怪物は片手を下ろし、片手をエディプスの手にのせた。ちなみにこのシーンが、二人がはじめて触れ合った瞬間、である。
「はい3本。どうですか?」
「う~ん、どうだかな~」
「正解ではないですけど、間違いではないでしょう?」
「まあ、そうですね」
「なら死なないし、食べられないし。そこも通れますよね?」
「そうね~、それで手を打っとこっか」
「じゃ、通りますよ」
「お気をつけて」
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