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いざ洞窟探検へ【二】
「約束事がある。上階層の一度の探索にかける時間は二刻までだ。よほど事情がなければうちではそう決まっている。上階層の悪気は強くないが、それでも人の身体にはよくない。五階層より下だと時間の制限はないが、悪気除けの魔玉具を必携しなくてはならないし、案内人を伴わなくてはならない。それは覚えといてくれ」
「ルーウェンちゃん、悪気にあたるとどうなるの?」
「頭が重くなったり、呼吸が浅くなるのは初期症状だな。人によっては眠くなるともいう。もう少し重くなると頭痛や吐き気、めまいや目の痛みとか様々だ。それを避けるために魔玉具がある。幻覚が始まったり動けなくなることもあるしひどくなれば最終的には死に至る。症状も許容量も個人差が大きいんだ。ジーンが詳しいだろう」
「そうなの?ジーンちゃん」
「全身の穴という穴から身体の中身が溶けて出ちゃうぞ。それでなくても混乱して誰かが斬りかかってきたりしたら命に関わる。人の断末魔は人が見て耐えられるもんじゃねぇな。先生は綺麗に言ってくれてるが、妖獣や妖魔は本当は人が触っていいもんじゃねぇんだよ。どうしても接敵してしまって避けられなければ苦しませないように狩る。それしかないんだ」
「それ、今度若い連中に教えてやってくれ。命知らずだから自分の腕を過信して突っ込んでいきやがる」
ルーウェンは、あえて避けた辺りを聞いてしまったソーレシアの方をそっと窺う。
けろっとして特に衝撃を受けた様子もない。
不思議な子どもだと思う。
いや、本当に子どもなのだろうか、時に計り知れないほど瞳が深い色を纏う。
ルーウェンは考え出すときりがないので考えないことにした。
「奏者の演奏はこの洞窟では妖魔や妖獣を避けたり悪気を和らげることはできるのか?俺ら、討伐の時にわざと強い口笛を吹くことがある。それで臆病な連中なら回避できることもあるんだけどな」
ジーンがルーウェンに尋ねた。
「戦いたい冒険者もいるだろうから追い払うのはおすすめはしないかな。悪気は短い時間なら散らすことができる。レナスは誰よりも音を上手く操る。傷がすぐに塞がったってやつもいるな。毒や悪気を消したことも、妖魔の眠りや病を防いだこともある。俺も実際見るまでは眉唾ものだって思ってた。あの域までいけば神官の奇蹟と変わらないよ。広い範囲に効くという点で神官を超える。だからどこの組合もレナスを引き入れたがったが、本人が頑として頷かなかった。レナスはこの洞窟の宝だから、みんなが大事にしてるよ」
ソーレシアが拳を握りしめてジーンを見上げる。
「ジーンちゃん!絶対レナスちゃんに会わなきゃね!」
「ああ、会ってもらえるといいな」
「さて、上手くいくといいな。出発しようか」
二人はルーウェンについて歩き出した。
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