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バジリスク
「ラッテンおばさん~!また来たよ~」
「おや、こないだのぼうやと兄さんだね、いらっしゃい!」
「ぼくはソル、こっちはジーンちゃんだよー」
いつもは人がごった返しているに違いないが、今は珍しく客がまばらだった。
「それじゃソルとジーン、今日は何にするね?」
「バジリスクのたまご焼きと赤色熊の照り焼きと大サボテンのサラダー」
「うんうん。ちゃんと野菜も食べるとは感心だ。ジーンは?」
「俺はソルと同……バジリスクかー。まあいいや。同じでお願いする」
「無理はしなくていいんだよ。妖獣料理は好き嫌いがある。でもうちのは私が獲って来たり、冒険者から新鮮なものを分けてもらうから美味しいよ」
ラッテンおばさんは冒険はやめてもまだ洞窟には降りているのだろう。
「いや、あれのたまごが美味いのは知ってるんだよ。討伐の苦労を思い出しただけで」
「じゃあそれでいいね」
ラッテンおばさんは笑いながら厨房に注文を伝えた。
「わあ!ジーンちゃんバジリスク狩ったことあるんだ!」
「やりづらい相手だ。身体中に毒があるし、目が合えば石にされる」
「石になるなんて喩え話で、動けなくなるだけだと思ってた!」
「それをわざわざ試した阿呆な学者がいてさ。魔玉薬で無理やり解毒したけど完全には元に戻らなかったな。髪の毛と爪が石のまんま。昼寝しにくいし、尻も掻きにくいだろうなありゃ。ソルは試すなよ」
ソーレシアはちょっと試してみたいと思っていたが思いとどまった。
「どうやって倒したの?!」
「斧でドン」
「やっぱりジーンちゃん雑だよね。毒も平気なんだよね。石化も」
「平気なわけあるか。それで死ぬわけじゃねえってだけで痛い時もあるさ。石化は俺はほら、はっきり見えないからな。互いの視線が通らなきゃ効かねぇみたいだぞ」
「さ、料理ができたよ。冷めないうちに食べとくれ。大皿に盛ってある。ソル、ジーンに取り分けてやっておくれね」
「はーい、美味しそう〜!」
実際ほっぺたが落ちるほど美味で、二人ともあっという間に食べ尽くした。
「ラッテンおばさん、ジャックおじさん、ごちそうさまでした。本当に美味しかったよ〜。そうそう、洞窟でレナスちゃんに会ったんだよ」
「そうかい!あの子人見知りなのによく会えたね!」
「うん!ジーンちゃんが葦笛吹いてたら聞いてくれたの!」
「そりゃ凄い。あの子は優しいけど下手な音楽には手厳しい。よっぽどいい奏者なんだね」
「おばさん。レナスちゃんは目が見えないんだね。だからジーンちゃんに優しくしてくれたんだね」
「……それもあるかねぇ。レナスは生まれつき目が見えないもんだからどうしても手を出し過ぎちゃうんだ。うちは猟師の家だが誰に似たのか賢くて何でもできる子なのにね。音楽と魔術を自分から学んだんだよ。私塾の先生方が手放したがらないほどだった。研究の道に進むんだろうと思ってたけど、冒険者になるのが夢だったそうだ。その頃、おばさんは主人や主人の友人と冒険してたんだけど、そこにレナスが入ってくれて随分助けられたよ」
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