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ジャックおじさんたちの話【一】
翌日昼過ぎ、ソーレシアとジーンはラッテンおばさんの店へとやってきた。
店には閉店札がかかっていたが、ラッテンおばさんがいつものように出迎えてくれた。
「昼は食べたかい?軽食は用意してあるよ」
店内にはジャックおじさんらしい中年男が、大柄な身体を小さくして椅子に座っていた。
レナスもいて、洞窟の中とは違うくつろいだ表情と姿勢で竪琴を爪弾いている。
そしてもう一人。
「少し話をしたら、自分も加えてくれって言ってやってきてね。イベロンだよ」
「組合長さん!?」
ソーレシアが驚いて聞き返した。
「ルーウェンとブランドンから期待の新星だと聞いてるよ。よろしくな、ソル、ジーン」
中肉中背で穏やかな物腰だが、眼光は鋭い。
「組合を親父から引き継ぐ前はこの四人で探索をしてたんだ。今は新しい冒険者が被害に遭わないように、うちじゃ手練れの案内人をつけているよ。あれからはレナスとラッテンがずっと洞窟に入ってくれているが、正体が突き止められない。いくつか考えられることはあるが、確信を持てないでいる。この話し合い、ユークレス村のジーンがいるって聞いて直接意見を聞きたいと思ったんだ」
イベロン組合長は率直な人柄のようだ。
「俺が知っていることは殆どない。最初にこの件で俺が持った印象は人間の仕業に思えるってことだ」
ジーンはそう答えた。
「オレたちもそれを思った。レナスの嗅覚でも妖魔の匂いを嗅ぎ取れなかったからな。人だとしたら10本くらい腕がないと無理だな」
「それじゃみなさんはこれが可能な妖魔に心当たりがあるだろうか?」
ジーンは尋ねてみた。
「忍び寄る者が完全に気配を絶って、大型のバジリスクが共闘することがあれば可能かもしれない。ただ、どう考えてもどちらにもそれだけの知恵があるとは思えないし共闘する理由もない」
レナスが答えた。
「おれはね、あれ妖魔だと思う」
思いがけない声に全員が注目したせいで、体格のわりに気が小さそうなジャックおじさんはきゅっと肩をすぼめた。
「今まで言わなかったよな、ジャック、確実か?」
イベロンが驚いて尋ねた。
「確実じゃないから言わなかった。ずっと考えてたよ。人を食って人の頭を手に入れた妖魔ならどうだい。おれを石化して止めて、おれの後ろにいたイベロンと視線の通らないレナスを斬り裂いて後方のラッテンを毒で仕留める。ここまで一瞬だ」
ラッテンおばさんがつらそうにジャックおじさんの木の義足を見た。
石化しても全員をかばおうとした結果、片足は使い物にならないほど砕けてしまったのだ。
「昨夜、酒場の客に話を聞いた。ここらじゃ影獲りって昔話があるってな。でもおとぎ話じゃなく、人を食って力をつける妖魔はあちこちにいるんだ。ここのは人の影を獲って人に成り代わる。妖魔は元からの邪悪さに加えて人の姿と技や知恵を手に入れたと考えると辻褄が合うんじゃないかな」
ジーンの言葉に、ソーレシアは思い当たったようにジーンを見た。
「あの日食い獣の親戚みたいなもの?」
「もしかすると、だよ。手練ればかり選り好みして食ってるとすれば恐ろしい相手だよ」
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