ジャックおじさんたちの話【二】

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ジャックおじさんたちの話【二】

 「さて、これからどうするかだ。影獲りという妖魔が、人の姿をしてこの街に入りこんでいると考えていいだろうな。誰がそうかがわからない以上、他の連中に知らせるのは得策には思えない。誰もが人を疑い出せば、この街は崩壊しかねない。どうやったらおびき出せるだろうな」 イベロンは腕を組む。 「魔術には嘘や敵意を感知できる術がある」 それまで考え込んでいたレナスが口を開いた。 「術の問題は敵意や嘘の範囲が広いことだ。ほんの少しの恨みややっかみでも反応しかねないし、本人が気づいてない感情まであぶり出す可能性はある。同意の上でないと問題が起こるし、大抵の人間は親しくない者に心の中を知られたくはない。だから私はそういう術を人にはあまり使いたくない」 レナスは心苦しそうだ。 「そんなものかなあ」 「ソル。敵感知の魔玉具に平気で触れるやつはおまえ位だ。普通大人になりゃ心の中にやましいことのひとつやふたつある」 「ジーンちゃんも!?」 「ああ、俺もギットギトに穢れた大人だ。そんなわけでレナス。俺にその魔法をかけてほしい。俺がこの街に何の敵意も悪意もないことを証明してもらってから一人で洞窟に降りる。妖魔が力を欲しがっているなら俺はいい餌になるだろう」 その場の全員がぎょっとした。 「ジーンちゃん、私も魔法かけてもらって一緒に行く!」 「しっ」 ソーレシアが演技を忘れて叫んだので、ジーンがたしなめる。 だがみんなソーレシアの性別には気づいていたようで、誰も聞きとがめなかった。 「ごめんなさい。だますつもりはなかったんです。誰も私を知らない所で冒険がしてみたかったんです。私はソーレシア・チェルムといいます。この街で起こっていること、見逃せないと思っています。だからレナスちゃん。お願いします」 「二人とも、本当にいいのだろうか」 「頼む」 「二人の言うことに嘘や敵意はない……二人は神の光に包まれているね」 レナスは術をかけて呟いた。  「ソーレシア……イウースリ神殿の聖女だね。そしてジーン・ユークレスは護り手だ」 イベロンは気づいたらしく、ジャックおじさんとラッテンおばさんが目を丸くする。  「あなた方はこの洞窟を知らない。オレが案内する」 イベロンがそう申し出たのを、レナスが遮った。 「イベロンは組合だけでなく、この街の議会の要だ。ここにいてほしい。その探索には私を加えてもらえないかな。私なりに鍛錬を積んできたし魔術を使える。足手まといにはならないよ。私はこの洞窟を知ってるし、どの組合にもしがらみがない。そして癒し手は幾らいてもいい」 レナスはソーレシアとジーンにそう持ち掛けてきた。 二人は願ってもない申し出に賛成した。  「ここに敵感知の魔玉具がある」 「それ、ホルグディムにもあったよ!」 イベロンが取り出したものにソーレシアが驚く。 「念の為のものだったが、あなた方が誠意を見せてくださったので我々もそうしておきたい」 イベロンが取り出した魔玉具は、彼の手の中で綺麗な青色に光った。 「レナス、ジャックとラッテンも触ってもらっていいか?」 三人が触っても魔玉具は青く光った。 イベロンは頭を下げた。 「どうかこの街を護ってほしい」 「本当は誰も行かせたくないよ」 ラッテンおばさんとジャックおじさんは心底案じている様子でただ三人を見つめた。 【第十一話完】
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