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【第十二話】ウィンスゼ・テダム洞窟深奥へ
襲われた冒険者たち四人の傷は回復しているが、影が持ち去られていることがわかった。
イベロンは影獲りの仕業で間違いがないと判断した。
時間が経つほど冒険者たちの命が危うい。
ソーレシアとジーンはレナスに同行してもらってその夜にテダム洞窟に降り立った。
数日分の食事と水、悪気を浄化する魔玉具をそれぞれが持ち、ソーレシアはイベロンから敵感知の魔玉具も預かっている。
話し合って、灯りを消して移動するという結論に達した。
光があれば影ができる、ということは影獲りに隙と餌を与えるも同然だろう。
レナスとジーンは光がなくても戦える。
ソーレシアはミディルカーウィトゥスがいれば暗闇でも先を見通すことが可能だ。
ジーンは久々に神棍を担いで歩く。
幼き神々はどうやら遠足だと思っているようで、走り回って喜んでいる。
彼らが絶えず洞窟の様子を教え、話しかけてくれるおかげでジーンは何事もなく足を運べる。
この街に来てから大人しかったミディルカーウィトゥスは、しっかりとソーレシアのかばんに収まっている。
「これほどに濃い神の気は初めてです」
「レナスちゃんも神官?」
ソーレシアの質問にレナスは首を横に振った。
「神々の存在はわかりますし信じてもいますが、私の関心は早くから音楽や魔術にありました。それがなければ神官の道に進んだかもしれませんね」
レナスは時折竪琴を爪弾きながら、迷うことなく下の階層へと降りてゆく。
「これだけの神のご加護があれば悪気も感じませんね」
レナスは感心したように呟いた。
確かに七階層に来るまでに一度も交戦していない。
「レナスちゃんは目に頼らずにどうやって歩けるの?」
ソーレシアは素直に問いかけた。
「竪琴の跳ね返ってくる音を聞いてるんです。いつものことなので特に意識していませんでしたね……でも誰かいます。三……いや四人か。通路の先ですが」
レナスの言葉にソーレシアとジーンは驚いた。
「人の子であるな。悪意とまでは言えぬがこちらを疑う気持ちが強いのであろう。気が濁っておる。気をつけよ」
ミディルカーウィトゥスが言い終わらないうちに屈強な四人の男に取り囲まれた。
「レナス?このような時間に探索か?そちらの二人は見ない顔だ。俺はヌフエ組合のバルディウだ。何をしていたのか答えてほしい」
「バルディウ隊はヌフエ組合の中でも腕利きとして知られている。私で答えられることなら何でも」
レナスが静かに応対したが、隊の一人が三人に向かって、問答無用と言わんばかりの呪文を唱えてきた。
その呪文は途中で掻き消えてしまった。
「敵感知の魔法なら私がこの二人にかけて間がないから、よほど魔力を上げないとかからないはずです。二人は敵ではない。疑うのは無理もないが、その呪文はこんなに強引にかけていいものではありません。二人は聖女と護り手で、先日の冒険者が襲われた事件を解決するために力を貸してくれているんです」
「敵感知の魔玉具も持ってるよ、ほらー」
ソーレシアは青く光る魔玉具をバルディウ隊に差し出したが、誰も触らず気まずい顔をして立ち去ってしまった。
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