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入国のしおり
「少々調べさせてもらう。この国や国民に対し敵意があったり、あんたの言葉に嘘があればこちらの魔玉具が、あ……」
魔玉は、魔術師が貴石に魔力をこめるか、妖魔を倒した時に残される妖玉を、魔力や神の力で浄化して作られる。
濁りや傷が少なく大きいものほど力が強い。
力のある魔玉を使った魔玉具は、複雑な仕事をこなせる。
このようなこぶし大の魔玉のはまった魔玉具は滅多にない。
役人が言い終わらないうちに、ソーレシアは魔玉をぺたぺたと触りまくっていた。
「あーーー」
魔玉は青々と輝いていた。
「これ、青だといけないんですか……?」
ソーレシアはおそるおそる役人を見上げた。
「普通、ためらわずにこいつに触れる人間はまずいないよ。自分の心の中を知られることでもあるからな。結果からいえば問題ない。良かったな、赤だったら牢屋行きだ」
役人の態度はいくらか和らいでいる。
「これだったら仮の入国証を発行できる。それを持って冒険者の店へ行けば、何なりと仕事ができる。神官だと言ったな。癒し手は歓迎される」
「冒険者の店!物語で読んだ通り!本当にあるんですね?憧れなんです!」
役人は何だか心配になった。
この娘はあまりにも世間を知らないように思える。
「名前と生まれた国と、年齢に職業を教えてくれ。髪と瞳の色もな。今から入国証を作る」
「え?すぐに作ってもらえるんですか?」
「普通は時間をもらうが、ずっとここにいられても困る」
役人はペンと木札を構えた。
とても有能な人なのだろう。
「ソーレシア・チェルムです。ツウェーリグ生まれ。えーと、年は19、無職です。神さまはみっちゃんと……」
「いや、神じゃなく髪の色な」
「いやん、私ったら。今は埃かぶってますけど、これ黒なんですよー!。瞳の色は、たぶん青なんだけど、緑っぽいっていう人もいるし、何色なんでしょう?」
「いや、聞かれても。話が進まなくて困るな」
役人は、入国証に青緑と書き込んだ。
「お役人さん、うまいこと間を取った!」
「無職って何だ。神官だろう」
役人はソーレシアの調子に巻き込まれまいと必死だ。
「働いたことはないんです。だから今は無職で」
「これが入国証。そしてこっちが入国のしおり。あとで読んでおくがいい。簡単なこの街の地図も書いてある。ああ、冒険者の店は、最初はラドの店にしておけ。初心者にも親切だからな」
「お役人さんも親切です!良かった、いい人に当たって!」
役人は、なまぬるい顔でソーレシアを見送った。
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