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西の端から来た男
「ロドリゲス先輩ー、ただいま!休憩交代しましょー」
能天気な声に、役人ロドリゲスは振り向きもしない。
「テッド……随分ゆっくりな昼飯だったな」
「何かありましたかー?」
「あったも何も。まあいい、お前だと対応に困っただろうからな」
「魔玉具に誰かひっかかりました?」
「まだそっちのほうが面倒はなかったかもな」
「ホルグディムの西門はここで間違いないか?」
突然降ってきた太くかすれた声に、二人の役人は顔を強ばらせた。
厳つい顔と身体つきの大男だ。
褐色の肌と、濃い茶色の髪に灰色の目。
片目は雑に布で覆われていて、長い棒を担いでいる。
こちらも何だか面倒そうだとロドリゲスは思った。
ロドリゲスが催促する前に、男は鑑札を見せた。
犯罪者並みの強面だが、時間はかからずにすむかもしれない。
「ジーン・ユークレス?」
刻んである名を読み上げても、男は無言だ。
雲行きが怪しい。
しばらく経ってから、男はポンと手をたたいた。
「ああそうだった、俺んち辺りは苗字名乗る習慣がないからなあ」
「……こちらでは姓がないのは奴隷か犯罪者とみなされるからね」
テッドと呼ばれた若い役人が口をはさむ。
「ユークレス村の者か」
ロドリゲスが尋ねた。
「よく知ってるな、西の端も端のへき地なのに」
「白金札だね、この鑑札は。よほど功績と信用のある者でなければ、いくら金を積んだって発行されない」
ちなみに、銅札は決められた国にしか入れず、商売はできない。
銀札なら同じ条件だが商売ができる。
金札になれば、入国できる国に制限がなく商売もできるが、手に入れるには家を建てられるほどの金が必要となる。
「国からの開拓か妖魔の討伐依頼かな?」
ロドリゲスはジーンに問いかけた。
この国に集まる腕利きの冒険者でさえ解決できない事案が持ち上がっているのかもしれない。
「は?そんなもんねぇよ。ただの観光だよ」
ロドリゲスは、嘘をつけという言葉を呑み込んだ。
「そうそう、さっきそこでこれを拾ったんだよな。落とした人が困ってるんじゃないか?」
ジーンはロドリゲスにポンと何かを放った。
慌てて受け止めたロドリゲスが、息を呑んだ。
「黒札……だって?」
「え?黒札なんて、僕初めて見ましたよ!?」
「……ソーレシア……チェルム!?嘘だろう!?」
ロドリゲスは天を仰いだ。
「あれが?いやいや、この国に何が起きてるんだろう……」
黒札を持てるのは、国の要人か、大貴族、王族だけなのだ。
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