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西門にて
「ジーン・ユークレス。頼みがあるんだがな」
ロドリゲスがすまなそうに切り出した。
ユークレス村の名を出せば、頼みごとを断るのが難しくなる。
ロドリゲスはそれを熟知しているだろう。
ジーンはあからさまに顔をしかめた。
気の弱い者であれば後ずさるような獰猛な顔つきだ。
「何だ?」
「ソーレシア・チェルムという女性を、ここまで連れてきてほしい。この鑑札を渡さなければならん。たぶん、ラドの店という冒険者の店に向かったはずだ。通りを東にまっすぐだから、すぐにわかる」
「何で俺が?他の役人に頼め」
「ユークレス村の開拓者なら、おそらくこの国の役人よりは腕が立つ」
「全員そうだというわけじゃない。最近村長が代替わりしてな。俺は村を追い出されたんだよ。飯ばかり食らって大して役に立たないからな」
ジーンはげらげら笑った。
ロドリゲスとテッドは、顔を見合わせた。
この男の言葉は、どこまで本当なのかわからない。
「あれを持ってるってことは、そらまめは貴族か王族か?」
ジーンは不思議そうに尋ねた。
「そらまめじゃない、ソーレシア。19歳だと言ってたが、そうは見えなかったな。子どもみたいに小さくて、黒髪と、青だか緑だかわからない目をしてる。何があったのか、どうやってこの国までたどり着いたものか。一人っきりでボロボロだったんだ。黒札があれば、本来なら優秀な護衛なり、充分な活動資金が得られるはずなんだが」
「部外者に話していいことかよ。俺がそいつをさらって悪用するとか、考えないのか?」
ジーンはにやにやと、悪い笑みを浮かべた。
「そういうつもりなら、この札をわざわざ届けはしないだろう。白金札を持つ者は、どの国に対しても対等で中立の立場だ。他にこんなことを頼める者はいない」
ロドリゲスは真摯に敬意を持って話しているのがわかる。
厄介なことになった、というようにジーンは頭をかいた。
「連れてくるだけだな。それ以上は関わらないぞ。報酬はもらうと言いたいとこだが……。あんたが西門のロドリゲスだな。村の長老連中があんたには世話になったと話してた。礼を言う」
それだけを言い残し、西の果てからやってきた男は、速足で街の中に消えていった。
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