エピソード「ホワイト①」

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 新しい教室があるのは北館2階の1番奥。南館と北館をつなぐ渡り廊下で、中学からの大親友の木下裕也(きのしたゆうや)に出会った。 「おはよう、カズ」 「おっす。裕也は何組だった?」 「お前と一緒だよ。ったく、カズは本当に女の子のことしか頭に無いんだな」 「ったりめーよ!今年はあの大山が同じクラスだし、いい一年になるぜ!裕也もいるしな!」 「…俺はついでかよ。ほら、行こうぜ」 裕也は呆れたようにため息をつき、俺の隣に並んだ。裕也は呆れた風にしているが、俺が本当に裕也の事を好きでいてくれるのをわかってくれている。去年は違うクラスだったから、今年同じクラスなのは素直に嬉しい。裕也はいい奴だ。仏のように広い心を持っていて、いじめる奴をたった1人でも庇える、そういう奴だ。そんな裕也が自分の親友でよかったと思う。だがしかし、俺より女の子にモテるのはダメなところだな。まぁ、確かに裕也は身長183センチで顔つきも綺麗なイケメンだと思う。そのうえ性格もいいし、頭もいいし、スポーツもできるとなると…女の子は放って置くわけはないけど…でも俺だって身長175センチはあるし、そこそこイケメだと思うし、性格もそんなに悪くないと思うんだけどな…まぁチャラっとはしているけど。 「カズ、よそ見してると危ない」 ふいに裕也に肩を引き寄せられ、慌てて前を見ると、掃除用具入れがあった。裕也のおかげで衝突を回避できたようだ。うん、俺よりモテるのが悪いなんて言ってわかった。俺でも惚れるわ。 そうしているうちに、北館二階の1番奥、俺らの新しい教室に着いた。  教室にはクラスの約3分の1程の人が集まっていた。大山ももう席についていた。やはり大山は神的に可愛い…と思ったのは束の間だった。俺の目は大山の斜め前の人物に釘付けになっていた。天使だ…。天使がいる。かけているだけでどんな美人でも不細工になると言われる、眼鏡をかけていのにも関わらず、神的に可愛い。あの大山ですら脇役に見えるぐらい可愛い。一体誰なんだ… 「うっす、裕也!カズ!今年もよろしくな!!」 「あぁ、石田、よろしくな」 「おーい、カズ!聞こえてるかー?」 「石田、ダメだ。カズは相変わらず女の子にしか興味がないんだよ…」 「ははっ、相変わらずだな、カズは。さては、アレだな?大山に釘付けになって、俺らの話なんか聞こえていないな?」 「ったく…カズ!石田が挨拶してるぞ」 トントンと裕也に肩をたたかれ、俺はようやく現実に戻ってくることが出来た。やばい、天使を見ていたら完全に別世界に飛んでいた。いつの間にか俺の目の前には石田春馬(いしだはるま)がいた。石田は去年の裕也のクラスの友達で、裕也のクラスに遊びに行っているうちに、俺も仲良くなった。 「おっす、石田」 「うっす、カズは相変わらず女の子にしか興味ないな!どうせアレだろ?大山の神的な可愛さに見惚れてたんだろ??」 石田がニヤニヤしながら、俺と大山をチラチラと交互に見てくる。違うんだよ、大山より可愛い天使を見つけたんだ! 「ちっげーよ!確かに、大山は可愛い。けど、あの子の方が可愛い!!あの子は?お前ら、あの子の名前知らないか?!」 「カズ、落ち着けって。あの子って誰?」 「大山意外で可愛い子って誰だー?和田?斎藤?まさかの田中か??」 「ほら、あの子だって!!窓側の1番前の!本読んでる子!!」 俺が興奮して、天使を指差し名前を尋ねると、石田がギョッと驚いた顔をした。何だ?何でそんな反応するんだ? 「アレは…AI相川じゃないか…」 「は??AI相川って何だ?天使のあだ名か?相川さんってのか!しかも成績までいいのか〜!!さいっこうだな!ところで、なんでAIなんだ?頭がいいから??」 裕也もAI相川という名には聞き覚えがあるらしく、ハッとした顔をし、チラッと石田の方を見た。 「あのな、カズ。カズは去年のクラスも中学も違うし、知らないのは仕方ないとは思うんだけどな、あの子はカズのタイプとはかけ離れてると思うぜー? AIって言われてる所以なんだけど、感情がないって感じなんだ。悪い子ではないんだけどな??ただ、あの子が表情を変えたり、感情的なところを誰も見たことがなくて…中学の時の話なんだけど、いじめられてる時すら常に真顔で無関心だったよ」 「そうか…カズは相川さんみたいな子がタイプなのか。中学からの親友だと思ってたけど、知らなかった。というかカズは本当に顔しか見てな 「取り消す!取り消すわ!!俺はやっぱ可愛くてデレデレしてくれて明るくて少しエッチな子がいい。うん、ちょっとした気の迷いだった、気にしないでくれ」 相川さんの話を聞き、俺は相川さんを天使だと思ったことはなかった事にした。いや、可愛い、可愛いが!!感情がない子なんて怖い。いじめられても無関心は化物じみている。絶対仲良くなれる気がしない。それよりは、少しぐらい可愛くなくても、脇役でも、俺に可愛く笑いかけてくれる子がいい。俺の潔い諦めを聞き、裕也と石田は呆れ顔していた。いや、2人だけではなかった。クラス中が俺を見て、引いた顔をしている。これは…やらかしてしまった。どうやら、自分の思ったよりも大きいコアを出していて、みんなに聞こえたようだ。クラスの女の子達からの軽蔑する視線。俺の素敵な高校2年は終わってしまったかもしれない… 裕也が俺の肩をポンと叩き言った。 「…どんまい」 ちなみに、こんなにクラス中が俺を見ている時ですら、相川は俺のほうに目もくれず、本を読み続けていた。どうやら、石田の話は本当のようだ。話を聞いてもほんの少しだけ希望をもっていたが、その希望すら打ち砕かれた。せっかく、可愛い女の子が2人もいると思ったのに、最悪だ…
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