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一つ目
まったく、誰彼かまわず呪いをかけてやろうと作ったのに。
地下歩行空間憩いのスペースを借りて二日目、今日が最終日だ。
大きさは15㎝ほど、髪は束ねた毛糸を一本一本丁寧に頭部に縫い付けてあるから、丸顔に沿ったボブカットが綺麗にまとまっている。
瞳は刺繍でぱっちりとして、おちょぼ口。
フォルムは丸く可愛らしく、胴体にちょこんとつけられている手足は太さが同じ、イメージは某漫画家の小さな女の子キャラクターといった感じだ。
寄りかかせたら、座ることもできる。
それを三体。
茶色の髪の子、黄色の髪の子、赤い髪の子。
人形だけでは数が足らないし怪しいかと、得意の羊毛フェルトでネコやハムスター、豚やペンギンなども作り並べた。
念には念を、レジンのお花モチーフやウサギモチーフキーホルダーも数点、出品した。我ながら出来もよく品揃いも豊富だと思うのだが・・・。
女子高生や親子連れが通りかかっては手に取り、散々悩んだ挙げ句に帰って行く。
なぜか人形には目もくれず、マスコットやキーホルダーばかりが気に入られた。
今の時点で売れたものは、羊毛フェルト5点とキーホルダー4点。
それはいい。
私が買って欲しいのは、人形なのだ。
あれだけの思いを込めて作り上げた、ヒトガタ・・・。
その時、ふと気配を感じた。顔を上げるとそこには、これといった特徴のない中年女性が佇んでいた。疲れた目をして作品を見ている。
「まぁ、かわいいものが沢山ね」
「ありがとうございます、ご自由に手に取ってご覧下さい」
女はハムスターのマスコットを手に取った。
「うちで昔飼っていた子と似てるわ」
「これキンクマでしょ、綺麗な黄色ね」
「ありがとうございます」
キンクマをそっと元に戻した後、奇跡が起こった。女はあごに手を当てながら、例の人形へ目を向けたのだ。
しめしめ・・・!
やっとこの時が・・・!
「お人形・・・触ってもいいのかしら?」
「どうぞどうぞ」
先ほどより笑顔で私はこたえた。
しかし女は、なかなか選ばない。
どれを選んでも同じなのよ。
さっさと・・・!
「この子と目が合ったわ」
女が手にしたのは、赤いワンピースの茶色の髪だった。
「すごいわ、目は刺繍しているのね。それに小さなお口もかわいい」
「ありがとうございます〜、一つ一つ、心を込めて作りました」
くくく。いよいよ売れるかもしれない!
女は他の二体の人形には目を向けなかった。
人形の頭を丁寧に撫でながらしばらく考えている。
買えよ、買えよ、買えよ・・・
「この子たちが優しい人の所で暮らすことが私の夢なんです、あ、夢なんて恥ずかしいっ」
二人でくすす、と笑った。
「わかったわ、この子にします」
「お買い上げありがとうございます!!」思わず大声が出た。
そして私は人形を柔らかい布で丁寧に包み、小さな紙袋へ入れた。
その時自分でも聞き取れないような声で、ある言葉を口にする。
すると不思議なことに、ほんの少しだけ袋の重みが増した。
「1000円になります」
「こんなに丁寧に作ってるんだから、材料費もかかるでしょう?」
「いえいえ、ある物を使ったりしてますし、何よりお客様に満足していただきたいので・・・」
しゃあしゃあと嘘を吐いた。
袋を手にした女は一度袋の中身を見、
「大切にするわね」
と声をかけた。
しようがしまいが、どちらでもいい。
効力はあるはず。実験済みだからね。
女は優しい表情をしている。
「とてもいいお買い物、ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
10分ほどのやり取りを経て、やっと目的の一つが達成された。
ようやく一体、売れた。さばいた。はなった。
私は小躍りしたくなるような気分で一杯だった。
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