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「久しぶり。」
それが、私達の挨拶になっていた。
子供達の背中に手を添えて、少し屈むように私の前に立つ貴女。
何時も幸せそうに微笑んだ貴女。
前栽を走り回った、あの頃の私達と同じ年頃の二人の子供が、お母さんの足に隠れるようにこっちを見てる。
「おいで……。」
手招きをした私の処に来たのは、小さな男の子。
お姉ちゃんは、上目遣いにお母さんの足に隠れたままでこっちを見てる。
一姫二太郎。
小さな結婚式場で、憧れのウェディングドレスを身に纏った従姉妹は、自分の夢見た家庭を築いてた。
高級住宅街に、家を建てたと聞いていた。
子供たちは、小学生からお受験なのだと聞いていた。
共に体験の時を過ごして来た私達は、お互いの近況を聞くことで知る距離にいた。
大人になった私達は、年に数度顔を会わすのが良いところだった。
お互いの今は、その時語るだけになっていた。
それだけの時が流れてた。
駆け回る子供の私達を、見守ってくれた祖父も、厳しかった祖母も、既にこの空間には居ない。
子供の私が駆け抜けた門扉。
子供の私が開け放った古い木の扉。
靴を脱ぎ散らかして上がった高い上がり框。
何故か大人になる程、私には、重く高いものとなっていた。
“久しぶり”の言葉と共に、貴女の幸せを聞いていた。
そんな幸せの報告を聞き始めて、十二年が過ぎた頃。
初めて辛い………、辛い現実の報告を聞いた。
そう……聞いていたはずだったのに。
でも………まさか、私が初めて貴女の子供達と思い出を作ろうとした、そんな日に言い渡されていたなんて………
思いもしなかったんだよ。
だって………
貴女は、笑って居たじゃない。
「子供達に良い経験をありがとう。」
そう……、笑ってくれたじゃない。
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