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「由香、みてみて。私、心霊写真を撮ったかもしれない!」  紗奈(さな)が手に持ったスマホをぐいっと、私の目の前に突き出した。  暗い画面に映っている画像は、どこかは分からないが神社のようだ。  大きくて立派な石の鳥居は、周りに生い茂った木のつくる陰で斑になっている。その下を通ってまっすぐ奥へと続く参道も幅広く、奥の方に向かって歩く参拝客も写りこんでいた。すごく寂れた感じだけど、さぞかし由緒ある大きな神社なのだろうと思った。 「相多町(あいだちょう)にある巳山神社ってとこなんだけど、恋愛成就の神様なんだって」 「相多町! 遠いし、何もない町だよね。わざわざ行ったの?」 「まあね。空気はきれいだし電車で一時間もかからないから。それより、みて!」  紗奈がスマホの画面を触ると、写真の一部が拡大される。鳥居の両側には木々が生い茂っているんだけど、左側の藪の奥に、ぼんやりと白いものが写っていた。 「ほら、これ。白いところ、顔みたいに見えない?」 「うーん。そう言われたら……そうかなあ」 「絶対顔だって! 心霊写真!」 「ぼやけてるからなあ。しいて言えば、顔に見えないこともないかも」 「他にもあるのよ」  そう言うと、紗奈は嬉しそうにスマホをスワイプして写真をめくる。  神社の中を撮ったらしき写真が数枚続き、その後で商店街らしき写真に変わる。 「ほら、この電柱の後ろから手が出てるの」 「えー、拡大しすぎだからそう見えるんじゃない?」 「絶対手だって。人が隠れてるとかだったら撮るときに気付いたし、多分悪霊だよ」 「やめてよ、紗奈っ。怖いじゃん」 「大丈夫。大丈夫だって。きっとこの人に憑いてる悪霊だと思う」  そう言って紗奈が指さしたのは、電柱のそばの恋人同士っぽい二人組のうちの女の子のほうだ。  ……あれ?  その子が着ている服は、紺のふわっとしたスカートに淡いピンクっぽいブラウス。……さっきも見た。  鳥居の近くに写っていた参拝客、その後数枚の写真にも、同じ服の子が写っていたような気がする。  紗奈は他にも見せたい写真があるようで、なんども画面をスワイプして写真をめくる。めくるたびに、そのピンクのブラウスの子がどこかに写っているのが見えた。 「ほら、この写真も怪しいと思うのよね」  紗奈が拡大した写真の中にはしっかりとピンクのブラウスの子が写っている。そしてその隣にいるのは、サッカー部の山田先輩だ。紗奈が、いつも話していた一つ上の学年の先輩。「カッコいいでしょう!」と、校内で撮った写真を何度か見せてもらったことがあった。  紗奈のスマホの中の山田先輩とピンクのブラウスの子は、手をつないで仲良く歩いている。かなり拡大しないと分からない小さな横顔は楽しそうに笑っていて、カメラに気付いた様子はない。 「紗奈……この写真……」 「ね。心霊写真っぽいでしょ。ほら、これも! そして、これも!」  紗奈が画面の上で指を滑らせる。何枚も、何枚も、二人を撮った写真が続く。  背景は神社から商店街へ。商店街から駅へ。  そしてやがて見知らぬ住宅街へと……。
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