血と黙

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 三池は笹原が出ていくか、仕事を辞めるかすると思っていたが、実際はそのどちらでもなかった。あの出来事があってからも生活に大きな変化は起きなかった。朝、二人で農場に行き、昼になれば三池が作った弁当を食べ、夜ともなると向かい合わせで夕食を共にする。変わらぬ日々。奴が一体何を考えているのか、まるで分からなかった。  あの夜から、三池は暫く笹原を構うのを止めた。けれど、いかんせん、島には遊びというものが不足していた。刺激というものが欠けていた。笹原は嫌がらなかった。抵抗をしなかった。結局の所、暑さというのは人を狂わせた。音も光も無い空間に閉じこめられた人間が狂うのと同じように。  それ以外に理由はなかった。  久しぶりの休日、島食堂で泡盛を飲みながら飯塚がこんな事を言った。 「お前、コックを目指したらどうだ?」 「コックだって?」 「お前がその気なら、店を紹介できるよ。何年か頑張ったら、自分の店だって持てるかもしれん。それをお前の夢にするっていうのはどうだ?」 「どうだかな。飯を作るのは好きだけど、よく分かんねえ」 「結論は急がない。だけどな、身の振り方は考えておけよ」 「分かったよ」  三池はそう言い、話半分で返事をした。
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