血と黙

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 布団の上、三池は煙草を吸っていた。隣には笹原がいて、うつ伏せの状態になり、肩で息をしていた。初めの頃、事が終わると三池はいちいち部屋に戻っていた。が、最近では面倒臭くなり朝までこちらで過ごす事が多くなった。二人の関係が変化しても、その親密度は殆ど赤の他人と同じだった。お互いに何も語らずに、何も口にしなかった。血液型ですら知らなかった。  三池は煙草を吸いながら、飯塚から言われた言葉を思い出していた。それは今の自分にとって、霞に手を伸ばすのと同じ事だった。  三池は煙草を揉み消し、うつ伏せになった。男二人分の汗を吸った布団はじっとり濡れ、酸っぱいような黴臭いような匂いがした。  暫くすると、肩で息をしていた笹原も落ち着きを取り戻した。黒糖のように陽に焼けた背中、汗を弾く肌は目が覚めるように若い。三池は何かを喋りかけ、止めた。その代わり、真珠のように連なる笹原の背骨を指でなぞった。  幾度となく夜を重ねたが、繋がったのは体だけで、お互いの心は何一つ分からないままだった。  翌日、妹から電話があった。あれから紆余曲折はあったものの、新居への引っ越しは無事終わったようだった。  三池は妹から言われた住所をメモ用紙に書き留めた。それは東北の小さな町だった。  三池はそのメモを自室の机の中にしまった。家の中なら泥棒も入らないだろう、そう思って。  けれど、仕事から家に帰るとそのメモ紙がなくなっていた。現金、貴重品には一切、手をつけられていないにも関わらず。
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