血と黙

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 用意された寮は、南の島によくある赤い屋根瓦の平屋だった。 「おい、誰かいねえのか?」  荷物を下ろし、三池は呼びつける。  中央に大きなリビング、それを取り囲むように縁側のついた渡り廊下があり、奥に個別の部屋が用意されていた。  ややあって奥の部屋から同居人が姿を見せた。陽に焼けた痩せっぽっちの男。こちらを伺う上目遣いの眼差しは以前、何処かで見たような覚えがあった。 「お前は?」 「笹原」 「笹原?下の名前はねえのかよ?」  笹原は押し黙り、呟くように言った。 「忍」 「笹原忍ね」三池はそう言い、値踏みするように男を眺めた。「んで、何やって捕まった?」  笹原は答えない。黙って下を向いたままだった。 「生きる為の犯罪は仕方ねえ。だけどな、俺はクソみてえな犯罪だけは許せねえ。女とガキを狙うようなもんは特にな」  三池はそう言い、笹原の肩に手を置いた。 「何をやらかしたって聞いてんだ、口がねえのか?」  三池は笹原の頬に軽い平手を食らわせた。笹原は一瞬怯んだが、それでも何かを言う気配は無かった。 「知ってるか?人って簡単に壊せるんだぜ?」と、三池は言って、笑った。「まあ、いいや。ゆっくりやっていこうや?」
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