血と黙

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 農作業と家の往復、たまにスナック。島は過ごしやすく人も親切だが、毎日同じ事が続くと流石に飽きがきた。なにか趣味のような物を探そうと釣りやダイビング、島のおじい達に交じって将棋を指してみたりもしたが、どれもしっくりこなかった。  島に来て二週間目、三池は自炊をする事にした。元々、料理を作るのは嫌いではなかったし、材料を買ってそれをどう組み合わせるのかを考えるのは楽しかった。  その日の夕暮れ、テーブルに並んだのは昼間から仕込みをしていた豚の角煮と魚の煮つけだった。気合が入り過ぎたのか、量はゆうに三人前を超えていた。だから、夕食に笹原を誘ったのは残飯処理の意味合いが強かった。  料理を前に、笹原は律儀に手を合わせた。夕食の誘いに彼は案外素直に従った。  飯を食べている間も笹原は無言だった。けれど、態度や表情から感じ取れるものがあった。笹原のその顔を見て、三池は昔、妹によく炒飯やオムライスを作ってやったのを思い出した。  父親は酒を飲のんでは子供達を殴るような男だった。体の傷が治る頃にまた新たな傷を付けられる。自然治癒した骨折の痕がいくつもあった。家を出たのは三池が十七の頃、妹は十五歳だった。生きていくには金が必要だった。金を得るには悪い事をしなくてはいけなかった。いつしか悪い事が生活の全てになった。  三池は不意に、小学生の頃の夢を思い出した。妹に美味い物をたらふく食べさせてあげられるコックさんに、自分はなりたかったのだ。  一体いつ、その夢を失くしたのだろう?
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