ブーム

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 毛並みの短い、薄いブルーの絨毯の上に座る西野ゆには、背中を後ろのベッドに寄り掛からせていた。  深まり出す夜の中、この部屋の主であるゆにの耳には、点けられたテレビから流れる音だけが届いている。しかし、ゆにの顔は、熱心に歌を唄う若者が映るテレビには向けられてはいない。  手元のスマホの画面に向けられているのだ。  普段から節電を心掛けている母親の里美に見付かりでもしたら、きっと怒られるだろう。しかし、高校一年のゆには、とうに反抗期を迎えている。  反抗したい気持ち故か、生活態度を改めようとはしなかった。  反抗期と言っても、同級生と比べればかわいいものだ。  ゆには里美に叱られても、見えないところで、ただぷくっと頬を膨らませるだけで、楯突く事はしなかった。しかし、叱られた事を改善する事もあまりなかったのだ。  『尾行倶楽部へようこそ』  真っ黒なスマホの画面には、その言葉だけが白い文字で表示されている。  ゆには、尾行倶楽部という文字を不安気に見詰めている。 「次にくるのは、これだよ」  今日学校で聞いた、親友の片瀬麻美の言葉が浮かんだ。
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