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真っ黒な画面に、白い文字で映し出されている『尾行倶楽部』の文字。
麻美が突き出しているスマホの画面には、その黒と白以外の色は存在していない。
丸みが一切無い。明らかに手書きではない。ゆにはその機械的な文字に、どこか冷たさと怖さを感じた。
「…なんかのアプリ?」
しかし、何故かその文字から目が離せないゆには、画面を見詰めたまま尋ねた。
「そう、アプリだよ。全部無料だから、ゆにもダウンロードしなよ」
一瞬、悪魔の囁きに聞こえた。
しかしそれは、親友の口から発せられた言葉だと直ぐに気付いた。何だったんだ今のは?そう思いながらゆには、ようやく無機質な『尾行倶楽部』の文字から目を背けると、麻美を見詰めた。
「…どうしたの?」
何も言わずに自分を見詰めるゆにに、麻美は尋ねた。
「え?…ううん、何でもないよ」
馬鹿馬鹿しい。親友が悪魔な筈がない。なんで、そんな幻聴が聞こえてきたんだろう?
ゆには、強張った自分の頬を優しく撫でた。
「じゃあ、ゆにのスマホ貸して」
「え?何で?」
「何でって、アプリをダウンロードしてあげるんだよ」
「……」
ゆには何も答えずに、麻美から目を反らした。
「ん?ゆに、どうかしたの?」
麻美の声に混じり、悪魔の囁くような声が聞こえた気がした。
ゆには思わず、両手で耳を塞いだ。
「ゆに、どうしたの?」
麻美は空いている左手で、ゆにの腕に触れた。
ゆには、一瞬体をびくつかせた後、ゆっくりと耳から両手を離した。
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