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「たぶん、あっち」と、チヅルが右奥を指す。
「そこから確認しましょう」
「了解」
機嫌を直したチヅルが右に向かう。その先には左右に一つずつのドアがあり、右側のドアは書庫だった。
「こっちも外れだね」
弥生が左側のドアを覗き込んだ。そこは社長室でもあるのだろう。手前に大きな応接セットがあり、奥にサイドボードと両袖机がある。机の背後には日の丸の国旗と〝報恩愛国〟と書かれた額が飾られていた。美人局で女を金に換えるような男が愛国を掲げるのかと思うと嫌な気分だ。
「やっぱり向こうのようね」
美智は先頭になって光の漏れるドアに向かった。
「いいわね……」
ドアノブに手を置き、2人に目配せした。そっと回すとドアは静に開いた。部屋の中央にはビールの空き缶が並んだ応接セットがあって、長椅子に男が寝ていた。少年のような寝顔だが、そのいびきは一人前の大人だ。そこは美智が想像していたより狭かった。その理由は左側の壁にドアがあるのでわかった。その奥にも部屋があるのに違いない。
美智はドアを指差し、足音を忍ばせて室内に入った。若い男は相変わらずいびきをかいていて、美智たちの侵入に気づきそうにない。
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