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合併話で盛り上がる社員の時間は、飛ぶような速さで過ぎた。美智も同じで、いつもより昼休みが早くやってきたような気がした。
「合併だなんて。突然、大変なことになりましたね」
いつものように弁当を広げると、希美が言った。
「そうね。それにしても情報の漏れるのが早すぎるわ」
「きっと野村課長辺りですよ。噂の発信元」
彼女はそう言って経理課長の容子の机に視線を走らせた。
「それだけでもないと思うわ」
美智は、役員としての自覚が薄い福島博明を疑っていた。午前中に訪ねてきた設計課の女子社員は彼の指揮下にある。
「秘密を1人の胸に抱えているのは意外と苦しいから、誰かに話したくなるのですね」
希美の話は、多くの秘密を抱える美智の心に突き刺さる。抱えている秘密は、盗聴システムそのものだけではない。それを通じて知った社員のプライベートな情報は膨大だった。そうしたものは出来るだけ聞かないようにしているのだが、まるで換気扇の油汚れのように、いつの間にか頭にこびりついてしまうのだ。最近では、社長とキャバ嬢のミチルのことがそうだ。ベッドの中で二人は再会を約束したが、その後、社長がミチルを誘っても店外のデートに応じてもらえず、いらだっているようだった。なんて女にだらしないのか……。美智は思う。それでなくても社長には、青井由紀子という愛人が人事課にいるのだ。
「美智さんは、こうなることを事前に知っていたのですよね?」
希美の声で、社長の秘め事に想いを馳せていた美智は我に返った。
「増資のことを聞いてピンと来ただけよ。希美さんこそ、合併は片桐監査役の希望通りじゃない」
美智は、監査役の片桐瑞穂が、かねがねNOMURA建設とモチズリ建築を合併させて企業規模を大きくすべきだと希美に話していたことを言った。
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