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三井が事務所に戻ったのは、午後3時を過ぎてからだった。顔色が蒼い。例年なら1時間以内に終わる株主総会と役員会が倍も時間を要したのが原因だろう。問題は、要した時間ではなく議論の中身だ。
「課長、どうしたのです? 顔色が悪いですよ」
「あ、いや、なんでもない……」
美智の問いかけに、三井は言葉を濁して席についた。ところが直後、「ちょっと、集まってくれ」と総務課員を呼び集めた。
「静かに聞いてくれ。会長が増資を提案して承認された」
三井の話に美智は驚いた。てっきり、合併問題で役員会が長引いたのだろうと考えていたからだ。
「増資って何ですか?」
矢吹桃香が首を傾げ、ベテランの土橋孝雄が応じた。
「株式会社が新しい株式を発行して資金を調達することだ……」
彼の顔が三井に向く。
「……しかし、唐突ですね。ウチは中小企業のメリットを享受するために、わざわざ資本金を1億に抑えてあるはずですが……」
中小企業は大企業よりも税率が低いほか、大企業が経費と認められない交際費や引当金などを経費として処理できるといった税制上のメリットがある。
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