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「ヘェー、今度は本当の拉致なのぉ?」
チヅルがニッと笑う。
「チビと違うのよ。美智さんが噓を言って呼び出すはずないでしょ」
弥生はチヅルの頭に大きな手を乗せて、髪をかき回した。
「ジャンボ、やだぁ。髪が乱れるぅ」
チヅルは口を尖らしてパタパタと逃げた。
「静にして……」美智は2人を制し、ゆっくりと高野須コンサルタント事務所に向かって歩いた。
「美智さん。誰が監禁されているの?」
弥生が背後で訊いた。
「キャバクラだもの、若い女よね。無理やり仕事をさせられるんだ」
美智より先にチヅルが応えた。それが冗談なのか真面目に言っているのか、美智には分からなかった。ヘッドライトの明かりが近づいてくる。それが眩しく、美智は手のひらで遮った。
「片桐監査役よ」
「エッ! どうして、誰に?」
車が走り抜け、弥生の大きな声はエンジン音で掻き消された。
「今は詳しいことは言えないけど……。会社を守るためなのよ。とにかく、まだあそこに監査役がいるのか、確認したいの」
美智は歩みを早めて敷地に入り、建物を見上げた。3階部分の一角にだけ明かりが灯っている。
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