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「あそこにいるのね。で、どうするつもりなの?」
弥生が訊いた。
「花見の席に飛び込んだ時、猫沢老人に教えられたでしょ。用事があるならドアを叩けって」
「叩けよ、さらば開かれん、というやつね」
「まぁ、そうね」
美智は強化ガラス製のドアの前に立った。内部を覗くと、そこは非常灯の明かりがあるだけでシンとしていた。インターフォンのようなものが見当たらないので、ドアの取っ手に手を掛ける。それは押しても引いても動く気配がなかった。
「ロックがかかっているようね」
仕方がなく拳をつくってドアを叩いてみる。それはドコドコと鈍い音を立てたが、中から返事はなかった。
「私がやってみる」
弥生が前に出た。
「ジャンボ、ドアを壊しちゃだめだよ」
チヅルがクククと笑う。
ドンドン・ドンドン……弥生が叩く音は、美智の何倍も大きなものだった。
「誰かいませんかぁ」
ドアを叩きながら声を上げると、奥に明かりが灯った。
「聞こえたみたい」
振り返った弥生は得意気だ。
ガラスドアの向こう側に黒い人影が現れる。見るからに眼つきの悪い中年男だった。
「何だ。こんな夜中に?」
ドアを開けた男の目線が弥生、美智、チヅルの順番に流れた。
「ここにNOMURA建設の監査役がいると思うのですが……。話をさせてもらえませんか?」
声が反響する。美智は、瑞穂がここにいると確信した。
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