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「いるのよね。片桐監査役」
弥生が美智の隣をすり抜けて押し入ろうとする。
「そんな女は知らん。入るな」
顔をしかめた男が弥生の肩を突いてドアを閉めた。
「こら、入れなさいよ! どうして監査役が女だと知っているのよ!」
弥生はドアをドンドン叩いて叫んだ。
「消え失せろ」
男はドアの向こう側で言い放ち、奥に姿を消した。
「絶対いるよね」
振り返った弥生の顔が紅潮している。
「そうね」
美智は数歩下がり、明かりのある3階の窓を見上げた。同じように、チヅルが美智の視線を追った。
「……あそこに監査役がいるのよね」
言うや否や、チヅルは建物の雨樋に取りついてスルスルと昇り始めた。
「止めなさい。危ない」
美智が止めても彼女が止まることはなかった。あっという間に3階に達すると、今度は窓枠につかまって横に移動している。
「やっぱり猿の生まれ変わりだよね」
弥生が見上げて感心していた。
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