突入

6/14
前へ
/70ページ
次へ
明かりの点いた窓の前に達したチヅルは中を覗きこんでいたが、やがて窓を開けて室内に滑り込んだ。 「入った……。空き巣だ……」と、弥生。 「大丈夫かしら? あの男がいるのよ」 「そうか。人がいるから空き巣とは言わないよね」 「そういうことじゃなくって……」 「大丈夫よ。チビはすばしっこいから」 2人はチヅルが忍び込んだ窓をじっと見つめていた。そこには僅かな変化もなく、まるで時間が止まったようだ。 「美智さん」 声と共にトントンと腕をつつかれた感触がある。視線を落とすとチヅルがいた。 「ヒャ……」両手で口を抑えた。 「チビ!」弥生も目を丸くしている。 「鍵を開けたよ」 チヅルが建物の入り口を指した。ドアが開いたままだった。 「監査役はいなかったの?」 「男が寝ていただけだよ」 弥生が屈みこみ、チヅルの両肩を握って尋ねる。 「降りてくる途中に部屋はなかった? ここにいるはずなのよ」 「部屋が多くてわからないよ。それにあの男がいたし……」 美智は恐る恐る出入り口に近づいた。建物の奥からドカドカ走る足音がする。 「待ちやがれ。俺たちの事務所に忍び込むとはいい度胸だ」 あの男の声が反響している。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加