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「キャッ、来ちゃったぁ」
チヅルが美智の背後に隠れた。
「エッ……」
チヅルの姿を追った美智が顔をあげた時には、怒りをあらわにした男が迫っていた。恐怖で筋肉が硬直する。刹那、風が舞った。美智の頭上を黒い影が飛び、背後でドスンと音がした。
「美智さん、大丈夫?」
目の前に弥生の顔があって、フーッと長い息を吐いた。
「ええ……、男の人は?」
「伸びてるよ」
背後からチヅルの声がする。彼女は地面に倒れた男の顔を覗きこんでいた。
「怪我は?」
「わかんない。でも、息はあるよ」
「美智さん。そんな男は放っておいて監査役を捜そう」
男を介抱しようとする美智の腕を弥生が引いた。
1階はオフィス家具やパソコンが並んだ事務所スペースだった。それを横目で見ながら階段を上った。目指すは3階だ。
「男が寝ていたのよね?」
階段を上がりきったところでチヅルに確認した。光が漏れるドアが廊下の左奥にある。
「うん」
「何人?」
「1人……、だったと思う」
「チビ、頼りないねぇ」
「だって、怖かったんだもの」
弥生に責められ、チヅルはプーッと頬を膨らませた。
「追いかけて来た男はどこにいたの?」
美智は彼女の頭を撫でながら訊いた。
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