お局美智Ⅸ ――偽りの対等合併――

突入

目的のドアに近づくのは簡単だったが、それには鍵が掛かっていた。

トントンと軽くドアを叩き、声を潜めて尋ねた。

「監査役、そこにいるのですか？」

反応は激烈だった。

――ドンドンドン――

内部から激しい勢いでたたかれた。「助けて！」という叫び声のおまけつきだ。

いびきが止み、男が頭を持ち上げる。

「ん……、誰だ！」

「何でもないから、休んでいて」

チヅルが優しく言うと、尚更驚いた男が飛び起きた。チヅルの倍もありそうな背の高い青年だった。

「何をしている……、泥棒か？」

目を丸くした男は走り出し、美智を突き飛ばしてドアの前に立ちふさがった。

「他人を監禁しておいて、泥棒だなんて。盗人猛々しいとは、あんたたちのような男のことを言うんだよ。早く、監査役を出しなさい」

弥生の大声に勇気を得たように、ドアをたたく音が大きくなった。

「犬だよ。こら、ポチ、静にしろ」

男が、ドン！……とドアを一つ叩くと、内部からたたく音が止んだ。

「どきなさい。警察を呼ぶわよ」

弥生がドアに近づく。「煩い」と、男が上から摑(つか)みかかった。