128人が本棚に入れています
本棚に追加
「よっ」
短く言った弥生の右足が床を滑って男の足を払う。
「ゲッ……」受け身をとれない男は、左わき腹から倒れた。
すかさず弥生が右わき腹めがけて膝を落とす。
「グッ……」男が呻いた。
「ごめん。滑ったわ」
からかうように言った弥生が男に跨った。
「そこの部屋の鍵は何処?」
「……し、知るかっ」
「警察に突き出すよ」
「やれるものならやってみろ」
「仕方がない。三途の川を見てみる?」
弥生は方針を転換したようだ。男のシャツの襟で頸動脈を締める。
「グ、グルシ……」
男が弥生の腕をタップし、「ポ、ポケットだ……」ともらした。
美智とチヅルが男に飛びつき、ポケットをまさぐる。
「あったよ」
チヅルが鍵を掲げ、ドアに飛びついた。錠が外れると、転がるように出てきた瑞穂が美智の前に座り込み、チヅルは好奇心のままに奥へ進んだ。
美智は肩で息をする瑞穂を抱き起こした。
「監査役、怪我はありませんか?」
「佐久間さん、どうしてここが?」
潤んだ瞳が美智を見ていた。
「そのことは後で。とにかく、帰りましょう。顔色が悪いです」
「アッ」と弥生の声がする。瑞穂の姿を見て油断したのだろう。男に突き飛ばされてゴロンと床に転がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!