突入

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「よっ」 短く言った弥生の右足が床を滑って男の足を払う。 「ゲッ……」受け身をとれない男は、左わき腹から倒れた。 すかさず弥生が右わき腹めがけて膝を落とす。 「グッ……」男が呻いた。 「ごめん。滑ったわ」 からかうように言った弥生が男に跨った。 「そこの部屋の鍵は何処?」 「……し、知るかっ」 「警察に突き出すよ」 「やれるものならやってみろ」 「仕方がない。三途の川を見てみる?」 弥生は方針を転換したようだ。男のシャツの襟で頸動脈(けいどうみゃく)を締める。 「グ、グルシ……」 男が弥生の腕をタップし、「ポ、ポケットだ……」ともらした。 美智とチヅルが男に飛びつき、ポケットをまさぐる。 「あったよ」 チヅルが鍵を掲げ、ドアに飛びついた。錠が外れると、転がるように出てきた瑞穂が美智の前に座り込み、チヅルは好奇心のままに奥へ進んだ。 美智は肩で息をする瑞穂を抱き起こした。 「監査役、怪我はありませんか?」 「佐久間さん、どうしてここが?」 潤んだ瞳が美智を見ていた。 「そのことは後で。とにかく、帰りましょう。顔色が悪いです」 「アッ」と弥生の声がする。瑞穂の姿を見て油断したのだろう。男に突き飛ばされてゴロンと床に転がっていた。
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